第18話:婚約破棄3




「いやぁ、突然来てしまってすまないね。朝から子供達が出掛ける用意をしているから話を聞いてみれば、侯爵家有責の婚約破棄と言うじゃないか!それは子供達だけじゃ申し訳なくてね」

 婚約破棄の立会人としてなのか、単なる野次馬なのか判らないが、話の内容とは合わない明るい声でここへ来た理由を話すのは、ダヴォーリオ公爵だ。


 余りの大物の登場に、有責側のベッラノーヴァ侯爵家側だけでなく、ティツィアーノ伯爵家側の人間も硬直していた。

 1番先に我に返ったのは、デルフィーナだった。

 さすが社交界の華である。

 美しいだけでは、華とは呼ばれないのだ。


「ダヴォーリオ公爵閣下、態々わざわざご足労いただき、ありがとうございます」

 デルフィーナがフランチェスコを促しながら席を立ち挨拶をする。

 フェデリーカ含む子供達も、慌ててそれにならって立ち上がり頭を下げた。



 出遅れたベッラノーヴァ侯爵が挨拶する前に、ダヴォーリオ公爵家の面々は、用意されていた席に着く。

 まだ話し合いが済んでいないので、立会人となるエルヴィディオ・ダヴォーリオ公爵令息とディーノ・ザンドナーイ公爵令息は別室待機している。


 しかしこのままでは出番は無いかもしれない。

 ダヴォーリオ公爵がいる時点で、事足りてしまっている。

 書類に公爵のサインが無くとも、反故にされる事は無いだろう。



「で、そこのスティーグ君が子爵令嬢を愛人として侍らせていて、フェデリーカ嬢を身代わりのお飾り婚約者だと公言してるんだってね?」

 ダヴォーリオ公爵がとても良い笑顔で笑う。

「い、いや、それには理由がございまして」

 ベッラノーヴァ侯爵が弁解しようとするが、それをダヴォーリオ公爵は手で制する。


「入学してから3ヶ月。既に学校内で知らない者が居ないほど有名らしいじゃないか。しかもフェデリーカ嬢は、最初は関係改善を求めていたのだろう?」

 スティーグがフェデリーカを睨み付ける。

 自業自得なのに、公爵の中で自分の評価が低く、フェデリーカの方は高いのが許せないのだろう。


「これは、完全にスティーグ・ベッラノーヴァ侯爵子息の有責での婚約破棄だね」

 ダヴォーリオ公爵が宣言した。

 先程まではあれだけ抵抗していたベッラノーヴァ侯爵と夫人も、池の鯉のように口をパクパクしてから、何も言えずに口を閉じた。




 呆気ないくらいトントン拍子に話が決まって行った。

 ティツィアーノ伯爵家側が希望した通りに、スティーグ有責での婚約破棄。

 不貞相手のカーラがベッラノーヴァ侯爵家に居る事から、侯爵家にも責任有りとする事。


 婚約破棄の慰謝料は、相場の3倍は高い。

 その理由も「婚約を申し込んだ時点で子爵令嬢の事知ってたでしょ?詐欺で訴える方が良いかい?」と、半ばダヴォーリオ公爵が脅し取ったものだ。

 業務提携も、二度と結ばれないので連絡しない事、となった。


 書類作成時に呼ばれたダヴォーリオ家次男のエルヴィディオは、父親の暴走っぷりに顔を青くしていた。

 ずっと眺めていた証人だったはずの三男ジェネジオは、なぜか顔を赤くし、イレーニアは笑いを堪えていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る