第19話:カルカテルラ子爵家




 スティーグの不貞相手のカーラの実家、カルカテルラ子爵家。

 ベッラノーヴァ侯爵夫人の遠い親戚になる家で、行儀見習いとしてカーラを侯爵家へと預けたのは間違いでは無い。

 しかし、さすがはあのカーラの実家である。

 カーラがスティーグのとなった時、「良くやった!」と褒めたのである。


 娘を高位貴族家へ預ける下位貴族には、2種類ある。

 本気で行儀見習いさせるつもりの良心的な家と、あわよくば嫡男のお手つきとなり第二夫人にしてもらおうという下心のある家。

 無論、カルカテルラ子爵家は後者だ。


 子供でも出来てしまえば御の字である。

 それが正妻よりも前で、後継者にでもなれれば第二夫人でもないがしろにされる事は無い。

 むしろ、正妻よりも事実上は高い地位となる可能性もある。



「スティーグの婚約者正妻に、伯爵家の令嬢が決まったの」

 実家に顔を出していたカーラは、両親にそう話した。

「スティーグは、地味で可愛げの無い女だから、完全なお飾りで抱く気も無いって言ってくれてるんだけどぉ」

 スティーグの手土産のクッキーを食べながら、更に愚痴る。


 スティーグが政略結婚の為の婚約をする為に、相手との仲を深めるのに恋人の存在がバレるとまずいからと、カーラは実家に帰されていた。

 そしてついに婚約が決まったからと、侯爵家へと戻っても大丈夫だと手土産を持って、子爵家に居るカーラに言いに来たのだ。


「荷物まとめるからって、1日待って貰ったけど~」

 カーラが不機嫌に言う。

 お飾りとはいえ、恋人に婚約者が出来たのだ。

 上機嫌の訳が無い。



「お前だって侯爵家に嫁入りする事は決まっている。言わば婚約者だ」

 カーラがスティーグのお手付きになった時に、第二夫人として迎えると侯爵に確約してもらっていた。

 ただ、正式に届け出る事は出来ない。

 既に第二夫人の決まっている家に喜んで嫁いでくる高位貴族令嬢は居ない。


「相手は業務提携を結んだ伯爵家の令嬢なのでしょう?完全な政略結婚だし、相手から婚約破棄される心配は無いのだもの。そこは、面倒臭い仕事を代わりにしてくれるお飾りだと思って割り切りなさいな」

 子爵夫人……カーラの母親が娘をさとした。


 そんな前置きがあったので、カーラは学校でスティーグの婚約者として振舞っていたのだ。

 正式に手続きは済んでいないが、侯爵が確約したのならば婚約者と言えなくもない。

 ただしそれは、今現在は表立って言える事では無い。

 それを理解出来なかった事が、カーラとスティーグの浅はかなところだろう。




 そして学校内でスティーグとカーラの関係が完全に知れ渡った頃。

 カルカテルラ子爵家に、ティツィアーノ伯爵家から書類が届いた。

 何も繋がりも関わりも無いはずの伯爵家からの書類。


 そこで何か重要な書類なのかと、すぐに開けて確認する常識の有る人間であれば、そもそもカーラのような娘は育っていなかっただろう。



 それは貴族裁判を起こすとの通告であり、和解など話し合う気があるのならば、簡易裁判か間に立会人を立てて話し合う、との連絡だった。


 貴族裁判は記録も残り、その結果は全貴族に公表される。

 負けた側が社交界から事実上追放される程の不名誉だった。

 その為、確実に勝てる時しか訴えを起こさないし、そもそも被告側が裁判前に和解を申し込むのが常だった。



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