第10話:仲間を呼ぶ




 昼休み。

 終業の鐘と共に、カーラは教室を飛び出して行った。

 おそらくその行き先は、スティーグの教室であろう。


 朝あった事と、その時のフェデリーカの態度を、自分に都合の良いように報告するつもりだろう。

 カーラは担任に注意された件や、公爵令嬢のイレーニアが関わっている事は言わない可能性が高い。

 カーラの話を聞き、怒りをたぎらせたスティーグは、高圧的に声を掛けてきて一方的になじってくるに違いない。


 フェデリーカとロザリアとイレーニアの三人は、顔を見合わせてほくそ笑む。

 大勢の見ている前で「身代わり婚約者」や「お飾り婚約者」など、不貞行為を示す台詞を吐いてくれれば御の字である。




「お兄様を迎えに行きましょう」

 廊下を歩いていたイレーニアが突然、行き先を変えた。

 食堂へ向かっていたのだが、上級生のクラスへと向かう。

「え?何で?」

「大丈夫なの!?」

 フェデリーカとロザリアは当然焦るが、イレーニアは気にせず進んで行く。


「ベッラノーヴァ侯爵令息が力に訴える可能性もありますでしょ?幸い兄は騎士希望で鍛えておりますのよ」

 イレーニアが笑うが、フェデリーカとロザリアは笑えなかった。

 逆上して暴力を振るわれる可能性は、考えていなかったのだ。



「私の婚約者が学生だったら完璧だったのに」

 残念そうに呟くイレーニア。しかしその婚約者とは誰だろう?

 フェデリーカとロザリアは顔を見合わせる。

「彼の誕生日パーティーで発表されますが、第三王子殿下の婚約者に決まりましたの」

「王……!?」

 驚いて声を上げそうになったロザリアの口を、イレーニアが慌てて塞ぐ。

 因みにフェデリーカは自分で塞いだ。


「研究馬鹿ですけれど、優しい方ですのよ」

 殆ど表舞台に出て来ない第三王子は、生活を豊かにする道具を研究する変わり者王子だった。



「詳しい話は今度ゆっくりしましょう」

 驚いている間に、イレーニアの兄の教室にたどり着いていた。

「お兄様!」

 教室内を見て、イレーニアがすぐに声を出す。

 どうやらすぐに目的の人物が見つかったようだ。

「レーニ?どうし……あ」

 近付いて来たイレーニアの兄は、フェデリーカを見て言葉を止めた。


「実は、お兄様に協力して欲しい事が有るのです」

 兄の腕を掴んだイレーニアは、ニッコリと微笑む。

 それにつられて、フェデリーカも笑顔を向けていた。



「話は解った。同じ男としてあれは許せなかったし、喜んで協力しよう」

 イレーニアの兄、ジェネジオが仲間になった。

 くだらないと一蹴される事も考えていたフェデリーカは、嬉しくなり満面の笑みをジェネジオへと向ける。


「よろしくお願いします」

 素直に笑顔を向けてくるフェデリーカを見て、ジェネジオが微かに耳を赤くする。

 頬まで赤くならないところは、さすがは公爵令息といったところだろう。


「では、食堂で敵を待ちましょう」

 フェデリーカが意気揚々と食堂へ向かおうとして、足を止める。

「私は健気でか弱いので、ロザリア先にお願い」

 儚い笑顔を浮かべたフェデリーカが、ロザリアの背中を押した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る