第6話:作戦開始




 翌日、フェデリーカが登校すると、教室の入口にカーラ・カルカテルラが居た。

 昨日一緒に居た令嬢達を引き連れている。

「あ~ら、昨日はどうも」

 腕組みをして仁王立ちをした状態のカーラが、フェデリーカに声を掛ける。

 淑女としてどうかと思われる態度だが、その前にカーラは子爵令嬢である。

 友人でもない伯爵令嬢のフェデリーカに、カーラから声を掛けるのは貴族のルール違反だ。


 フェデリーカはカーラには視線も向けず、そのまま横を通り過ぎる。

 それが気に食わなかったのだろう。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 カーラは大声でフェデリーカを引き止めた。

 廊下にも教室内にも、カーラの声が響き渡る。


 フェデリーカは、さも今気が付いたとばかりに振り返った。

「あの、私ですか?」

 いつもよりメイド達が気合いを入れて磨き上げてくれたフェデリーカは、肌は白く髪はツヤツヤ守りたい雰囲気のゆるふわ化粧で、昨日の2割増しはかなげ美人になっている。


 対するカーラはフェデリーカと逆方向に気合いが入っていて、クルクルと巻いた派手な髪型に濃い化粧で、どう見ても制服と合っていない。

 下町などに居る、言い掛かりを付けてお金を脅し取る美人局つつもたせ彷彿ほうふつとさせた。



「何かご用ですか?」

 フェデリーカがふわりと微笑む。

 メイド相手に練習した、庇護欲を誘う笑顔だ。

「はぁ!?アタシとスティーグの関係知ってんでしょ!挨拶くらいしなさいよ」

 カーラの言葉に、フェデリーカは困ったように首を傾げる。


「昨日教室でお話が聞こえてきた時に私の婚約者と同姓同名だとは思っておりましたが、そちらは他国の方では無いのですか?だって、重複婚約は出来ませんもの」

 フェデリーカの中で、昨日の待合室での出来事は無かった事にされていた。




 昨夜、父のフランチェスコと話をしたフェデリーカは、入学式の様子を聞いた。

 実はフェデリーカが入場する前に、スティーグが子爵令嬢をエスコートして入場していたのだという。

 入学式が終わり、両親はその足でベッラノーヴァ侯爵家へと向かったそうだ。


 そこで入学式の件を問い詰めると、侯爵からの返答は「親戚の令嬢」だった。

 遠い親戚で、侯爵家へ行儀見習いに来ている令嬢だと。

 今回の婚約が決まる前にエスコートを引き受けていたので、しょうがなかったのだと説明された。


 急に婚約が決まったので、伝えるのを忘れていた。すまなかった、と侯爵が素直に非を認めたので、それ以上は追求出来なかったのだ。



「まさか屋敷内に女を引き入れていたとは……」

 フランチェスコが悔しそうに呟いたのに、フェデリーカも無言で頷いた。

 侯爵家や公爵家に、親戚の下位貴族の令嬢が行儀見習いに行くのは、よくある事なのである。


「もうこれは、スティーグ様の独断では無いですね。完膚無きまでにやってやります!慰謝料たんまり分捕りましょうね!」

 フェデリーカは決意を新たにする。

「幸い身代わり云々発言は、公爵家の関係者しか目撃してません。職員の方は口外しないでしょうし」


 フェデリーカの口角が上がる。

「まずは、私は何も知らない健気な婚約者というところから始めますね」

 社交界の華で、陰で女帝と呼ばれている母デルフィーナと同じ笑顔を浮かべたフェデリーカは、上機嫌で執務室を後にした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る