第5話:父への報告
屋敷に戻ったフェデリーカは、父フランチェスコの居る執務室へと向かった。
今日の出来事を報告する為である。
悲しげに報告する方が良いか、嬉しそうに報告する方が良いか、淡々と事実報告する方が良いか。
扉の前に立ち、淡々と事実を報告する事に決める。
数回ノックすると、中から「誰だ」と問うフランチェスコの声がした。
「フェデリーカです。少しお時間をいただけますか?」
やはり先に執事を通した方が良かったかしら?フェデリーカがそう考えたところで、中から「入りなさい」と返事があった。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、目の前の執務机に座っているフランチェスコがいた。
「急ぎの用事かい?」
机の上の書類を揃えながら、フランチェスコが言う。
夕食の後に、いつも家族団らんの時間がある。
その時に学校での出来事を報告するのが常なのだ。
「楽しい時間を潰すのは忍びなくて」
頬に手を当て、フェデリーカは苦笑する。
その様子を見て片眉を上げ、フランチェスコは立ち上がる。
「話を聞こう」
フェデリーカをソファへ誘導しながら、フランチェスコが告げた。
フェデリーカはなるべく感情的にならないように、事実だけを脚色せずに伝えた。
教室内で子爵令嬢がスティーグの婚約者だと触れ回っていた事。雑談だけでなく、自己紹介で「自分の婚約者は侯爵家嫡男だ」と宣言した事もしっかりと伝える。
そして馬車を待っている間に、スティーグに言われた事。なるべく言われた言葉も一語一句思い出して伝えた。
「ダヴォーリオ公爵令嬢とお兄様達、その婚約者のご令嬢方が室内にいらしたので、証人は充分ですわね」
そこまで一気に話し、フェデリーカは笑顔を浮かべる。
目の前のフランチェスコは、ワナワナと体を震わせていた。
「妙に事業の話を急ぐと思ったら……そういう事か」
いつもより低い声に、フランチェスコの怒りの度合いが判る。
「婚約なんぞ破棄だ!業務提携もせん!」
テーブルを叩くフランチェスコを見て、お茶を用意してもらわなくて良かったわ、とフェデリーカは明後日の事を考えていた。
フランチェスコは暫くスティーグとベッラノーヴァ侯爵家への怒りを口にしていたが、落ち着いたのか肩で息をしながらも大人しくなった。
それを見て大きく息を吸いこんだフェデリーカは、お腹に力を入れる。
「すぐに婚約破棄したら、私の
フランチェスコの眉間に皺が寄る。
「婚約してすぐに破棄したなど、私が悪いと皆が勝手に誤解しますわ」
侯爵家と伯爵家の婚約が、短期間で破棄される。
上の爵位からの破棄が普通である。
「今はクラスの中だけですが、もっと皆様にスティーグと子爵令嬢の関係を目撃してもらいましょう!」
フェデリーカは、馬車の中で考えた案を父親に提案する。
「超絶良い女になってから、馬鹿な婚約者と縁を切ってやるのです!その頃には周りも「あのクズなら婚約破棄して当然」と思うようになりますわ」
余りのフェデリーカの勢いに押され、あれだけ怒っていたフランチェスコも、「フェディが良いなら」と、戸惑いながらも了承した。
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