第七章 物語のエンディングには何かしらの伏線が回収されるものだ 二話

「私達仲間じゃないの? 同じ喜怒哀楽を分かち合った友達……親友だと思っていたのに!」

「誰が喋っても良いよって許可を出したのかなー? 黙れよ……ブス! レイナと友達って……私がいつアンタと友達になったわけ? 友達面するな、気色悪い。自分なりの正義感を振りかざすアンタの事が……私はね、宇宙一嫌いなの!」

「レイナ! にげッ……て……」

 硝煙が目の前で立ち昇り、肉を引き裂く轟音が沈黙へ変わった。薬莢の落ちるタイミングに合わせ、肉塊がドサッと生気を失う音を立て俺達の方へ倒れる。俺達を責め立てるように目の前で頭から落ちて。

……この肉片は人間だ、俺達の仲間で親友のテレシア。ソイツが苦痛で喘ぐ表情を見せて倒れただけ。ただ、それだけ。

「嫌……イヤァァァァァ!」

「……ッ!」

 違う、そうじゃないだろ海人。

 彼女は手を伸ばし、必死に訴えていた「逃げろ」と。

 ……またか。また死なのか。

何度も見た鮮血と錆びた鉄の臭い、耳にこびり付いた絶叫が人間の死を認識させる。出血元はこめかみで間違いなく、俺の問いに答えず瞳孔も散大している。死亡だ。助かる見込みは無い、だろう。

「はーい、コレで無駄な犠牲がまた一つ増えましたー。あまり私を怒らせないでね、楽しい殺戮物語が一瞬で終了する、つまらないモノになっちゃうから。いい加減、傍観する読者目線になって物事を考えようね? じゃないと――主人公諸共、いいえこの星ごと殺しちゃうかも……」

「待てよ……アメリ。他に言う事があるだろ! ふざけるな、この野郎!」

 後ろ姿を見せ立ち去ろうとする陰に向かい、俺は握り拳を作りその場で声を荒げる。

 テレシアは最後の最期まで俺達仲間を気遣ってくれた、生かそうとした――人一倍大人で優しくて仲間想いだったテレシア。それが数日前は同じ屋根で衣食住を共にした仲間に殺された。

 ……許せるわけが無い、結果に納得できる訳が無い!

「なあに? 海人くん。もしかして……大事なお仲間を殺されちゃって頭に血が昇ったのかなぁー?」

「うるさい……どうしてテレシアを殺した。答えろ!」

 軋む奥歯が怒りを必死に抑えていた。

レイナは隣で号泣し、誰よりテレシアの近くに居たガウトは己の無力さを声なき声で嘆いている。理由次第で許す気はないけれど、仮に贖罪や償う意思が少しでも存在するなら更生の余地はある。

「だからさ、諦めなって……今更わたしが罪を償うとでも? 浅はかで甘すぎるよ、失う命が増えるだけ。憎い苦しい、殺したい、復讐したい……愚かだね、海人は。そんな感情に流される時点で私と俺、海人達……君達はサイコロのままだ。第三者にはなり得ないのさ……」

「海人、レイナとリーナ! 逃げろ、お前達だけでも。アメリはもう以前のアメリじゃない! お願いだ、アメリ。この場に居る三人だけでも見逃してくれないか?」

「バカ! 何を言って……」

「ここは私の世界で私が望む展開で、私の物語。つまりお前は、それを全て『壊せ』って言うのかい? おいおい、あまり調子に乗っていると楽に死なせないからな? 口には気を付けろよ、雑魚が!」

「……」

「ごめんねー半分冗談だから、気にしないでー。そ、れ、よ、り、も。リーナはいつまで寝ているのかな? 私達が勝利しちゃうけれど大丈夫かな?」

 俺から見て視界右端に映り、未だうつ伏せのままピクリと反応もしないリーナへアメリは問い掛けるが、予想通り返答は来ない。

「逃げろー海人!」

「うるさいーな! レイナの為にサプライズで取っておいたけど……いいか。コイツ、うるさいしイライラするから日本刀で切り刻む事にした。じっくり少しずつ、海人に自責の念を持たせるように……ね」

「やめてアメリ! お願いだから、もう! 誰も殺さない……」

「ガウト、あなたを今から殺すことにしたからねー?」

「……で」

「レイナちゃんいい反応。そう、ソレが見たかったの! もっと見せろ、嘆いて叫べ!」

「これっ……兄さんの、いや違……」

「エルドの日本刀だよ。なんせ、エルドを殺して奪ったからね。どう?」

「そ、んな……待って」

「今から日本刀でガウトが切り刻まれ殺されるのは、レイナの責任だから。お前がガウトを殺す、殺したの」

「……私が」

 今、目の前で起こる惨劇は口にする、あるいは表現する行為自体を躊躇させてしまうほど憎く惨たらしく悲しい光景。

 漆黒に染まる刃――エルドの日本刀が手首足首の関節一本一本をジワジワ、時間を掛け切断しガウトの苦しむ表情を楽しんでは、爪を背中に食い込ませ皮膚を勢い良く下へ引き裂き、また反応を楽しむ。眼球を日本刀で抉り気絶しかける本人の首を絞め、意識を無理やり引き戻しては腸を外へ出す、素手で。辺り一面ガウトの血と汗、吐しゃ物や臓器がまき散らされ絶叫が周囲を覆った。

 ……鎧が剥がされている時点で、これは殺人に程遠い拷問だ。

「に……げ……」

「あら、この期に及んでも仲間の心配か、親友キャラとしては完璧だけど。物語としては少し、反応が物足りない!」

「グハッ……」

「あら、心臓を手で撫でただけじゃない。気絶しかけなくてもいいのに……あーあ、服に血液が付着する付着する」

「アメリ、ガウトへの拷問をやめろ! 今すぐに!」

「妹の私には無理難題なのです……海人には己の無力さを存分に感じ、ガウトの悲鳴を聞き続けて精神崩壊する必要が、そう運命が定められています」

「アメリは……私が海人の代わりに鉄槌を下す!」

「口の利き方には注意しろと母親に習わなかったー? 私はね、力のない癖に強がる雑魚が……ラスボスに楯突く雑魚が、幸せそうなアニメの主人公が嫌いなのよ! いいわ、特別に妹である私が相手をしてあげる」

 そう言ってアメリは躊躇する事もなく、自然にただ息を吸うようにガウトの命を――首をドス黒い日本刀ではねる。そして笑みを歪ませながら、奴は口元に飛び散ったガウトの血液を舐め取り、一歩ずつコチラへ歩みを始めた。

「また……か。また! 殺された」

悔しさと無力さ、恨み混じりの涙が止めどなく頬を伝い、床にはかつての親友が必死に零す赤の液体が床を濡らす。

「海人、アンタのせいで親友が死んだ、お前が殺した、全ての原因はお前の無力さにある」

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