第五章 異世界主人公は無双フラグが成立しやすい
「やっと……見えてきたね……魔王城」
「アメリ落ち着け、よ……周囲の安全……確認を怠るな」
魔王討伐並びにリーナ救出作戦決行日から数えて一週間ほど経過していた。その間リーナのアジト――ガザリアから真っ直ぐ北の森エクレバスを馬車で通り、ガラスト王国を囲む厳重な壁を抜けた森からは、舗装されていない場所を楽々走行可能な竜車で移動。その先、魔王領を囲むように覆われた黒霧は、視界が不透明な点と魔王の魔力が込められた防壁を考慮して歩くことに決め、今に至る。
……アイツの一部で生成された黒霧は、いわゆる結界と防犯カメラの役割を担う。
魔法の一つや二つ行使した瞬間、居場所が魔王へと行き渡り即お縄の未来しか見えない為、自然と移動手段は徒歩に限られ――結果として体力と根性の無い俺とアメリはクタクタの状態で森を抜けていた。
「言われ……なくて、も……」
「おい……俺の右隣……立つなよ、汗臭い!」
この通り、干物みたいな姿で。
「うるさい……可愛い、妹に……そんなこと……言う、な!」
「うるさいのは、お前……だ」
弱者同士の削り合いに命を賭けていた。
「二人共、何をしにココへ来たのか分かっているの?」
前方、そこらにある木の棒を片手にぐるぐると魔法陣らしきモノを描きつつ、俺達を注意したのは紛れもないレイナだ。
全身白の鎧を身に纏い左腰に日本刀、肩まで伸ばされた黒髪と青い瞳、和と洋が混じり合う容姿は一見すると互いに喧嘩しそうだがものの見事に共存している。コレもきっと、左側の和風イケメンが原因だろう。
こちらもレイナと同じく黒髪に青い双眸、だが佇まいや雰囲気、禍々しい黒の防具は厳粛さと強者感を覚える程に研ぎ澄まされている。
人間を見下す態度を除けば、言わずと知れた完璧超人として人間界に君臨していただろうに――
「おい、そこのニンゲン共。もたもたしているようであれば、殺すぞ」
――どうも妹の態度と否人間として振舞う奴の態度は、かけ離れ過ぎている。
「エルド、少しは上から目線の態度を治そうと思わない、のか?」
「指図するな、ニンゲン。癇に障る」
「兄さんソレですよ? 少しは自主規制して下さらないと、私も含めて本当に人から嫌われちゃいますよ?」
「良かろう、我が妹の為だ……貴様を許そう」
……シスコン兄様、怖すぎる。
結界魔法陣を描く少女の右横で腕組される威圧感が凄いけれど、逆にそれだけ妹のレイナと良い関係を継続し、尚且つ妹を大切にしている証拠だろう。そう思えば現状が良い事のように感じてくる今日、この頃。
「おい貴様、何を一人でニヤニヤしている……気持ち悪いぞ」
「え……」
右手で頬骨辺りを触ると、確かに筋肉が上へ盛り上がっていた。意識せずに気持ち悪い笑みを浮かべていると考えれば、自然と恥ずかしさが込み上げてくる。
「この海人のアホ面をカメラに収められたらいいのに……」
……アメリさんよ、そんなに俺の表情は酷いモノかね?
「さっさと歩きましょう! 冗談はこれくらいにして、集中を切らさずに!」
「はーい」
「なんか、すみません」
唐突に少女と争う自分が醜く思え、謝罪してしまう。
途中、アメリがペロッと舌を出し「ざまあみろ」と小悪魔の片鱗を見せたけれど、全身緑のエプロンドレスが風に吹かれ、正直――ドキドキした。
あの茶番から約十分経過。
俺達は魔王城が一望できて作戦を直ぐに移せるような理想的な場所を見つけ出し、拠点を構えていた。周囲は木々が広がり敵に見つかりにくく、付近には河川敷が見え水分補給もできる。何より大きいのは少し進むと魔王城全体を一望できる崖があり、尚且つ魔王城の正門から非常に近い位置に存在する点。
ベストポジションに、いま我々が居る訳だが。
「で、作戦はどうすんだ?」
円形に集まる俺達を確認すると、全身赤鎧姿のガウトは地面に置いた中央の地図を指しながら、俺の問いに答え始めた。
「多分、突破しやすいのは現在地の真逆に位置する裏門だけど……」
「ふん、ニンゲン共よ。貴様らの作戦などあの魔王が対策しない筈なかろうが。ここは敢えて正面突破を図った方が良いだろう」
ずる賢い方法を使わず、男らしく小道具に頼らない――正々堂々と。
「待て、エルド。目立ち過ぎてもこちらの戦況が悪化するだけだし、数で押されればこちらは確実に負けるぞ」
正面突破を狙う場合、ハイリスクが伴う可能性を視野に入れなければならない。
「だからこそだ、あの魔王を欺くには一見不可能だと思える方法や常識外れの型に入らなければ無理だろう、ニンゲン」
「海人、一度だけ兄さんの話を最後まで聞いてみない?」
「熱が入り過ぎた……すまない」
俺は一旦肩をすくめつつスーハーと呼吸を整えた後、エルドの話を聞く事にした。
「で、兄さん。作戦の詳細を」
「ああ、我々の行動が魔王へ伝達するまで時間は掛からないはず。そう仮定すると時間稼ぎ場所として必ず挙がる場所は正門――最も警備が甘くなる場所だ。奴らは突破されやすい裏門に戦力を多く配置する故、ココを狙う。裏門に関しては戦闘を行わずその場を回避する事だけ優先して立ち回れ。その後は二手に分かれて情報分散しながら魔王の居場所を見つけ次第、合流地点上空へ向けて赤い光を放っておく。それを目印に集合する作戦。裏門は囮という訳だ」
「さすが、私の兄さんです」
レイナに褒められて嬉しいのか、エルドは上機嫌に腕組をする。
……悔しいが、エルドの作戦は良案だ。
ヘイトを分散する事で、確実に魔王城内部へ侵入しつつ魔王を探す手間が二分の一にまで減るのだ。
「その案は良いと思うのですが代償として戦力も元の半分に減少し、戦闘面では数的不利を余儀なくされる対面が発生しやすいかと……」
遠慮がちに右手を挙げ、自分の意見を述べたテレシアの勇気や自分を貫くところはカッコイイと思うし、仲間を心配してくれている事も伝わった。
……確かにそうだ。二手に分かれると、防御は薄くなる。
「では。私とツンデレは裏門を攻め、残りは正門をお願いするとしよう」
「おい、大丈夫なのか? 二人だけで裏門は無理があるだろう、流石に。死ぬ可能性だって……」
「別にアンタが心配する事じゃないわ。私達はリーナの仲間――フラグ回収師よ、依頼者に酷な仕事は任せないわよ。それに、アンタよりも私達の方がね、数倍修羅場を経験してきたの――私達を舐めないでちょうだい」
確かに。
死の淵に立たされた回数や異世界経験の差はそっちの方が多いだろうし、リーナの裏切り行為が、意見を捻じ曲げない今の頑固なメアを作り出している原因に思えて。
……否定する事も出来ないだろうが。
頼もしくも不安定な二人の背中を見つめ、結局、俺は無言で送り出してしまった。
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