第二章 主人公位置ほどハーレムフラグは付いて回る 二話
「まとめると……海人の国ではフラグというお決まりのパターンが複数存在し、ソレに当てはまる言動を行えば良くも悪くも次の行動で現れるようになると。で、リーナさんは悪い方のフラグが海人を苦しめているからフラグ回収屋としての責務を全うする為、この世界へ来た。それで合っているかな? 二人共」
「ああ、おおよそ合っている。リーナによれば俺を苦しめているフラグの元凶、始まりは魔王復活フラグらしいから……」
「魔王を倒せば海人さんを苦しめ続けるフラグは解消され、晴れて自由の身に……」
前世から始まる話し合いは苛烈を極め、やっと一時間後の午後九時に収束が見え始めて来た頃合いだろうか。とっくに太陽は消え失せ、ダイヤモンドカットを施されたエメラルドグリーンの月が背後の窓から顔を覗かる時間。
「私は魔王討伐に協力する姿勢さ。それに、私の目的は他に……」
「おい、リーナ! 流石に無理が……」
「どうしたの? リーナちゃん」
「魔王復活の背後に隠れる創造神――神を殺す事さ」
話し合いの場を一へ戻す勢いで、リーナのとんでも発言が飛び交ってしまう。
……おいおい、まだ魔王討伐に対する協力の有無が明確じゃない段階で、その先の目的まで話すのは早すぎると思うぞ。
リーナの意図が全く読めない。
「待てよ、リーナ。まだ皆が魔王討伐に協力するか、否かが不明なのに……早まるな!」
「私には次の展開が分かる。この場に居る全員、誰一人として魔王討伐に非協力的な人間はいないだろう。虚言じゃない、物語の展開がそうなっている」
自信に満ちたリーナの表情とは裏腹に、彼女の右拳はテーブルの下でふつふつと震えている。
……そう、だよな。因果関係を操る神が、全ての選択や展開を操っている訳だし。
悔しいのは当たり前だ、今は奴に従う事しか叶わないのだから。
「ええ、もちろん! 私は海人に協力します」
「私もレイナさんと同じくで、す」
「妹を独りぼっちにさせるなんて許しませんよー?」
「親友を置いて日常生活を送るバカが何処に居る? 物語の展開とか関係なく、俺達はみんな自分の意思で選択している」
「妹としてはーもっと、決定的で説明不可能な証拠を提示してくれないと、リーナを信じるのは難しいかなぁ~」
「決定的な、ね……アメリ、君は随分と海人の事を気に掛けているようだけれど……もしかして、好きなのかい?」
「そうだよー? それがどうしたって言うのさ。リーナこそ海人を含めたみんなに、隠し事……しているくせに。私には見え見えだよ?」
テーブルに肘を付くリーナの口角は不敵に上がり、まるで何かを感じ取ったような表情のまま敵対心剥き出しのアメリを見据え、返答する。
「ああ、そうだとも隠している」
「おい待て! お前の能力は自分の力じゃどうにも出来ない事象を変える力だろ? それ以外まだ隠しているのか? それにフラグ回収能力だって……」
「……安易に人へ教えるべきじゃないと言いたいのだろう? しかし君の発言――心の声は既に、外部へ駄々洩れのようだが。とても他人に口を出すレベルじゃないように思えるが……」
「あっ……」
しまった、ついうっかり心の声が。
そう思ったが最後――
「フラグ回収能力? なんでしょうか、それ……」
――レイナを含む周囲の意識は完全にフラグ回収能力へ集められていた。
「かわいい妹の前で海人が口を塞ぐなんて、相当……怪しい予感しかしない!」
「俺だって気になっちまうぜ、こんな反応されたら……な?」
ここはリーナから説明を、と思ったけれども彼女の能力を勝手にカミングアウトしたのは俺な訳で。結果、怪我や危険に巻き込まれる形になれば元も子もない、完璧な戦犯と化す。
……リーナ的に言うならフラグが建った事になる。故に、ここは俺自身にフラグを付与した方が平等だと思う。
「……俺自身が説明する」
「海人さん、自身が説明ですか?」
「ああ、俺という存在がリーナの能力を本物にさせる証拠……いや証明だし、何よりもバラしたのは俺だからな」
俺の言葉を否定する者、肯定する者も現れない沈黙の渦中。必死に泳いで、みんなの理想的な説明と重々しい口元を軽くする術を探す。この説明がリーナの印象と信頼、先のハッピーエンドへ繋がる事を理解しているが故の迷いで、つい言葉を選んでしまう。
……やってやるさ、フラグ回収屋の一員として動くからには!
スーハーと酸素ならぬ気合いを取り入れ、その場で吐くと。
「俺が誘拐された場所は、この中心都市アルラトから遥か北に位置するガザリアだ……」
俺は説明を始めた。
「見ての通りガザリアの治安は最悪とされ、魔法の長時間使用と竜車移動は厳禁とされる土地で……おまけにココから歩いて一週間も掛かる所だ。そんな場所から俺は、なぜ無傷のまま帰還できたと思う? 奇跡でも無く現地の魔物と交友関係を築いた訳もなく、コレは……紛れもないリーナのフラグを変更する――不可能を可能にする力があってこその成功だ。俺は実際この目で能力を見たし、現時点で俺という存在が証明してくれる。嘘と思うなら魔力量を測ればいい」
「確かに……魔力量は凡人の四倍もあるけれど」
右手をかざす正面のレイナはバツが悪そうな声質で応えた。
……まあ、俺の魔力が転移魔法発動規定量を大幅に超える数値を叩ければ、リーナの能力。最も、不明瞭なフラグ自体を同時に認める事を意味している。
「否定するのも無理ないか……」
「全く! 全くもって全くだよ! ここは海人の妹として、私がきっちりとリーナを否定する! 理由は簡単、何を言っているのか分からないし信じられないから! そうでしょ、テレシア?」
「私もアメリさん程では無いにしろ、その……まだ信用しきれていないです」
「ま、俺ならリーナが隠していた能力……それ次第では協力関係を持つ可能性はあるけれど……」
どうだ、と右横に座るガウトが左側のリーナへ質問し再び沈黙へ。実際、挟まれている俺が誰よりも気まずい状況に置かれていた。
「私のもう一つの能力、それは……現在を文章化し可視化させ、把握する力。序盤に登場人物の名を全て把握する事も可能な力……忌々しき神の力」
……文章化の範囲がどれくらいの規模か不明な時点で、チート能力なのか、更には活用方法さえ見当が付かない。というか、見た事も聞いたことも無い能力だな。
「アンタの最終目標は創造神の殺害。そして海人に加担する理由は、魔王復活の背後に潜む黒幕が創造神だから。合っているか?」
「その通りだ、流石ガウトと言ったところか……」
「……別に隠す気は毛頭ない。どうせ、お前の能力で分かっているのだろう?」
「バレたか。まあ、彼――ガウト以外に納得する者などいないのだけれど……いいや、私達を選ぶ変人は君しかいないのさ」
異世界人なら尚更と、リーナは不敵に嗤いながら。
「これからよろしく頼むよ、ガウト君」
ガウトへ向けて俺の左横から右手を差し出す。
「ああ、味方は多ければ多いほど有利だからな。よろしく頼むリーナ」
……二人の思惑が分からない、というか怖い。
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