第一章 異世界転生者と魔王復活フラグは切り離せない 四話

「ところで私達はフラグ回収屋という名目で活動を行っていてね、フラグ回収師は巨乳メイドのメアと私の他にあと一人、計三名で活動をしていて……って、あいにく残りの一人は外出中だった……か」

 椅子に括り付けられた身体中の縄を解きつつリーナは俺の前で、一人ため息をつく。

「おいおい、仲間の一人が外出中なだけだろ? ため息をつくほどの問題か?」

「大大大問題よ! 新人のアンタには事の重大さが分からなくて当然だけどね、リーナのことを考えれば……」

そこにはリーナの右横に立ち、俺へ軽蔑の視線と苛立ちを浴びせてくる女――

「メア、私の心配はしなくても良いよ。それより大切なのは……分かるだろう?」

 ――俺をココへ連れて来た張本人、メアが睨みを利かせていた。

「リーナの身体……触ってないわよね?」

「指一本も触れていないって……」

険悪な雰囲気を察したか、正面のリーナは強引に話を進めて。

「そうだそうだ! 自己紹介がまだだったわね、改めて私の名前はリーナ・プロメ、年齢は十六歳。そしてフラグ回収屋を営むリーダーだ! 私の横に立つ子が『神楽坂メア』で十七歳のツンデレ娘。見れば分かるけどピンクのゴスロリ姿が特徴的な美少女さ。私の仲間であり、そして親友――共に創造神を殺す事を誓い合った仲。二人とも怖いよー顔。魔王復活フラグの回収を目的とする同士なのだから、仲良くしないとね!」

 メアの方が折れたらしい。

「分かりました……アンタ事は好きじゃないけれど、取り敢えず、リーナの言う事だから我慢するし従うわ、今のところはね……よろしく」

 差し出される手を握り返しただけで、害虫に触られたような速さで振りほどき、右手を上下左右に振りつつ軽蔑の眼差しを向けられるのだから。

 ……オーバーリアクションや冗談でもなく神楽坂メアという人間は、本当に俺の事を毛嫌いしているな。

 少し心がシュンとする、これがツンデレ属性のツン部分だと願いたいものだ。

「リーナ、彼かい――ポセイドンは」

 お通夜状態の空間に突如として男の声が入る。

「正解よ。わざわざ『ウチの地下へ』来てくれるなんて、察しが良いのは流石ね。あーそうそう、海人紹介するわね、この堅そうな長身デカブツ男はフラグ回収屋頭脳担当『ミネル・ホームズ』彼が現時点で、正式な最後のフラグ回収屋メンバーよ」

 リーナの声で俺はやっと後方を振り返った。俺から見て前方、扉前にリーナの発言通り百八十センチを優に超す男が、葉巻を口に咥えたまま俺を凝視してくる。

インバネスコートを着こなす男が軽い歩みで興味深そうにこちらへ近づき、その場で帽子を取ると――

「ミネル・ホームズ。本職はフリーの探偵事務所を運営していた者だが、しかし訳あって数か月前から彼女と行動を共にしている。何か解決して欲しい事件があれば気軽に相談し語り合おうじゃないか。これからよろしく頼む、ポセイドン」

――右手を差し出して来た。

……何処かの誰かさんよりも、ずっと優しい接し方だぞ。

少しは大人の対応を見習ってはどうだろうか、メアさんよ。

「よ、よろしくお願いします。つかぬ事をお聞きしますが、ホームズさんってあのシャーロック・ホームズとなにかご関係が?」

 この名に聞き覚えがある者なら誰でも質問せざるを得ない。

もし俺の前に現れた男が、あの有名なシャーロック・ホームズ本人様であるならば展開としては熱いし頼りになるものの、恐怖すら感じる。

事実、シャーロック・ホームズは架空の人物で現実に存在しないからだ。逆にこの非現実的な異世界で衣食住を営む時点で「どの口が言っている」とツッコミが入りそうだけども、俺は前方の男がシャーロック・ホームズ本人か調べ、異世界と彼がいた世界とのギャップを認知する必要性がある、と俺は思う。

 だからこそ彼の返答を俺は静かに待とうと思った。

「……」

「……」

 時が止まったように沈黙が広がる。

真剣な眼差しと直立する俺の姿勢と態度は変わらず目の前の男へ注がれる。相手が返答に困るような態度は見せていないし、むしろその状況を楽しんでいるように思える。どちらにせよ只者ではないオーラがぷんぷんだ。

それから数分後、沈黙を切り裂くように男は「関係ある」と一言添え――

「リーナ、集めたこの世界の情報を一度整理したい。いつもの部屋を使わせて貰う、長期戦になる事だけは覚悟しておけ……それと、私についての説明はリーナに一任しよう。では……」

 ――男は歩きつつリーナの背中へ手を振ると、そそくさと扉を開けて葉巻に火をつけた。

「という事で、名探偵に頼まれた私が代わりに説明してやろう。君の質問、その真偽についてな……」

「おい! 沈黙の空気に耐えて待った結果、ホームズ自身の口からは説明されず、結局説明するのは他人のリーナって……」

 流石に自由人過ぎやしないだろうか。

「まあホームズという人間は自分の興味に素直なだけだ。事件の匂いをいつも好き好んで嗅いでいる奴でね。諦めてくれ、海人」

「そうですか」

「うむ。彼、ミネル・ホームズは海人の質問通りシャーロック・ホームズと関係ある。なんせ、正真正銘の本人様だからね」

「ほ、本人⁉ 嘘だろあり得ない! だって俺の知っているシャーロック・ホームズは小説の登場人で、架空の人間だ。それが実在した人物だなんて……とてもじゃないが信じられるモノじゃない」

「シャーロック・ホームズは偽名だ、本当の名はミネル・ホームズ。彼を一躍有名人に仕立て上げた小説のホームズシリーズは彼の死後に書かれた本で……まあ、詳細は追々時間の許す時にでも……」

「おいおい、今世紀最大の発見であろう重大情報をサラッと、表情も変えずに良く言えたモンだな。俺は終始、驚きっぱなしだぞ」

 これには『見た目は子供、頭脳は大人!』さんが、聞いてもビックリすること間違いなしの情報だと思うけれど、リーナは俺のリアクシュンを完全スルーして。

「ところで海人……君がいる現在地、自身が誘拐された場所を知りたくはないかな?」

忘れかけていた疑問を思い出させてくれた。

「ああ……すっかり忘れていた」

 情報量が多すぎて、今の今まで頭から綺麗サッパリ消えていた。

「ココはガラスト王国領最北端に位置する郊外の山中よ。この家自体『時空移動装置』技術を搭載し、外部からの攻撃は全てシャットアウト。この家に居る限り、身の安全は保障されている」

「森の中? 時空? 意味が分からない」

 先程からフラグ回収屋やらシャーロック・ホームズご本人様登場と言い、解釈に頭をフル回転しなければいけない説明や事象が多くないか? 加えて時空も関わるとなれば、異世界転生のジャンルとして成立するか微妙になってきたぞ。

「簡単に説明すると、我々は海人の今いる世界とは別の世界から来た人間。だから移動手段には先程の『時空移動装置』が備わった、このアジトでのみ転移が可能なのさ」

「リーナの発言を少し付け足すと、このアジトはフラグ回収屋として活動する私達を、目的地の別世界、別次元へ飛ばしてくれる優れモノ――スタート地点よ。私達三人は、それぞれ別世界から来た人間なの。だからこそ価値観も違うし、こうしてアンタと私は対立している……いい加減、分かってくれた?」

「そうかい……全く。いつになれば俺への攻撃を止めてくれますかね」

 当分、メアと仲良くなるフラグは来なさそうだ。

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