第一章 異世界転生者と魔王復活フラグは切り離せない 二話

「ところでガウト、魔王復活フラグを広めた奴はどんな見た目だ?」

「あぁ、完全に忘れていた……見た事もねぇ女だったよ。そいつが突然、酒場に向かう俺に近づいてきてさ、魔王復活の情報提供をしてくれたよ。俺にはどうもあの女の話が胡散臭くて最初は半信半疑だったけど、酒場全体、いいや冒険者界隈に魔王復活の噂が広まる様子から見て、百パーセント嘘では無いと思い始めたところさ」

「……そいつを捻り潰せば全てが解決するのか?」

「でもその人が魔王復活の情報を提供しなければ、今頃、この国は魔王に滅ぼされていたかも?」

「確かにアメリさんの言う通り、知るか知らないかだと被害と犠牲は天地の差だと思います。それに……」

 テレシアの視線が真ん中、レイナの方へ向けられると同時に俺を含む三人も無言で視線を合わせた。沈黙が想像以上に重く、長く、続く。

……魔王軍はテレシア、次期女王を真っ先に殺すか人質として捕えるだろうな。

「私の意見として、魔王復活の報告をガウトに伝えた女は怪しいと思う。理由として、魔王復活を報告するなら影響力の高いお父様――現国王の元に報告するのが一番です。しかしながら事実として、あろうことか女はガウト、ただ一人にソレを伝えた」

レイナは魔王復活の知らせを教えた女が魔王側、あるいは敵国のスパイを予想したうえで対策を立てている。

……思い返せば、魔王復活という国家を揺るがす機密情報をわざわざ一人の冒険者に伝える必要があるのだろうか。

「可笑しいだろうし……余計、混乱を招くだけだと思う」

「魔王復活が事実なら私としては何処か、別の場所に亡命した方が良さそうだね。四人はどう思うかな?」

「亡命って言うけどさ、レイナ。場所と期間、現国王の許可は?」

 右隣のガウトは皆が抱いた疑問を提示する。

「もちろん……亡命だから許可は取らないつもり! まあ、冗談を抜きにしても敵は私達を放っておくはずがない、すぐ行動に移してくる」

「真剣な眼差しで言われると……な?」

 ガウトは左隣の俺に同意を求めてきたから――

「別に……わざわざ確かめなくても、俺は最初から決まっているさ」

 ――不敵な笑みを浮かべ、言葉を返した。


「ちゃんと回復薬の種類と容量、濃度と個数をそのメモに記しているからな、書いてある通りに買ってこいよ! 絶対だぞ!」

「分かっているよー気を付けるから」

 酒場を後にして五分ほど経過していた。

 その間、レイナの身を心配する俺達は、満場一致で当分ガラスト王国から遠ざかる事を決め、レイナ達女性陣は拠点の確保と環境生物の把握、魔王の情報収集を担当。ガウトは武器と防具の補給、回復薬とバフアイテム等は俺の担当になり各々別れて来るべき日に備え買い出しに行っていた。

ガウトとは道中が同じで。

「本当か? ちゃんと注文通りに買って来いよ。それに近頃、この付近で不審者が出たって噂があるらしい……気を付けろよ。なんせ、噂に寄ると誘拐犯はピンクのドレスを着た美人で巨乳らしいぞ」

「え、本当か!」

「はあー。特に女好きの男が……誘拐されやすいだとさ」

「ガウト……気を付けろよ、お前が一番危ないからな」

「それは海人、お前だよ……」

「ごめんちゃい」

 こうして雑談を交え、退屈を潰しているところだ。

「俺、右だから。くれぐれも誘拐されるなよー。三回目は嫌だからなー」

「ああ、気を付ける! そっちも魔族に絡まれるなよー」

 左右の分かれ道、分岐点で互いに手を振るとガウトは右側へ歩みを始めた。

「さてと。親友の背中を見送ったところで、ちゃちゃっと終わらせますか!」

 意識と視線を自分に戻し、いざ回復薬を買いに行こうと歩をガウトと逆側、左へ進めた次の瞬間――

「あんたが……真神海人?」

 ――背後から聞き覚えのない声が響き、俺の全身を硬直させた。


 ……待て。いつから居た、気配が無かったぞ。

 それに違和感がある――人間自体の気配が全くしないのだ、全方向から。

 あんなに眩しかった太陽は姿を消して、白の世界が上一面に広がっている。

「……」

 恐ろしくて発声の仕方すらおぼつかない。

「驚かせてしまい申し訳ありません。見た目からして有名冒険者の真神海人さんだと思いまして、つい声を掛けてしまい」

「……ど、どうかなさいましたか? 討伐依頼ですか?」

 後ろを振り返れば殺されそうな雰囲気と恐怖が同時に押し寄せ、全身が小刻みに震えてしまう。

「あなた様のような偉大な方になれば、ある程度危険なクエストもお手の物かと思い討伐依頼を……」

「そうですか。でもすみません、こちらの都合で当分この国に居なくて……ですが、内容次第では討伐依頼を王国側へ促すことも可能ですよ」

「いえ、その必要はありません……」

 徐々に街の風景を侵食する真っ黒な影と二つの影法師が怪しげなオーラを放つ。この世界に自分が取り残された気分になるのは前世でアニメを観すぎたせいなのだろうか。はたまた、死を錯覚してか。

……それにしても何故だろう、関わってはいけないモノに触れた気がする。

「お話がしたくて……少しの時間、付き合ってはくれませんか?」

「拒否したら……」

アニメお決まりの展開を嫌う俺だが今日限定で、ほぼバットエンド確定を引き当てた者として、この命尽き果てるまで運命様とやらに一泡吹かせてやろうと思った。

「強引にでも……連れて行くわ」

 勢いよく後ろを振り返った視線と意識は、運命に抗おうとする強気な姿勢に釘を刺す。

 なんせ――

「おいおい、聞いてないぜ……」

 ――気を付けるようにガウトが言った誘拐犯と見た目や服装が酷似していたからだ。

 大きな胸と全身ピンク、それも白のフリルがあしらわれたメイド服がその証拠で。

 ……あぁ、ダメだ。意識が遠のいていく。全身が重いし、動かない。

「……ハメ……ら、れ……」

 目を覚ませばその先には何が待ち構えている。拷問か、将又己の精神を崩壊させる蹂躙か、いっそのこと三途の川を船で渡る可能性さえ捨てきれない。どちらにせよ今、自身の身に危険が迫ることは明白だった。

「少し、眠ってもらうわ。まったく……リーナの指示が無ければ、こんな役回り引き受けてないからね」

 乖離する彼女のイメージは清楚系からツンデレ系へ。薄れゆく視界に入った景色はピンクを示し、遠のく聴覚からは布同士が擦れ合う音がして。

 やがて視界は――光を失い眠りに就く。

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