カタカタちゃん

@chased_dogs

カタカタちゃん

 それは寒い冬のこと。カタカタちゃんが広い草原くさはらで眠っていると、山の肩越しに冷たい風が吹きました。

 おお寒い、とカタカタちゃんはカタカタと震えました。震えて暖まろうというのです。

 それを見て、山間やまあいの雪雲はいやらしく身をくねらせると、冷たい風をびょうびょう吹かせました。

 おお、おお寒い、とカタカタちゃんはますますカタカタと身体を震わせました。


 カタカタちゃんの震えときたらひどいもので、山々はブルブルと震えだし、家々は鳴き始めました。雪雲も苦い顔を残して何処かへ消えてしまいました。

 それでもカタカタちゃんの震えは止まりません。山と山に挟まれて、冷たい風がカタカタちゃんの周りから出て行こうとしないからです。頭にのしかかり、鼻先を掠め、お腹の上を転げ回ります。

 カタカタちゃんはすっかり冷たくなって、暖まろうともっと身体を震わせました。


 それで困ったのはふもとの町の人達です。家鳴やなりは止まらず、皿は割れ、ベッドはぺしゃんこです。町人まちびとは怒りに震えガタガタといいました。

「カタカタちゃんを止めよう!」

 カタカタ、ガタガタ。

「カタカタちゃんを追い出そう!」

 カタカタ、ガタガタ。

「カタカタちゃんを海へ帰そう!」

 カタカタ、ガタガタ。

 町人はカタカタちゃんを囲みました。

「カタカタちゃん、それやめて!」

「やめて、カタカタ震えるのを」

 町人達は怖い顔で言います。カタカタちゃんは恐ろしくて、もっともっとカタカタ震えました。


 するとどうでしょう。怖い町人達は段々と上へ上へ昇って行き、遠く小さくなっていきます。いいえ、カタカタちゃんが地面の下へ沈んでいっているのです!

 カタカタちゃんはあまりに硬いので、カタカタするたび地面を掘ってしまっていたのでした。それでカタカタが酷くなって、ずんずんと沈むようになったのです。


「カーターカーターちゃーん! カーターカーターやーめーてー!」

 遠くの方で声がします。

 まだ怖いのでカタカタちゃんは深く深く沈み込みます。

 そうしてどれだけ潜ったでしょう。気付けば町人達の姿はすっかり見えなくなり、上には星の瞬きほどの明かりも見えなくなっていました。辺りは大変に蒸し暑く、熱くそしてただ熱くなっていました。

 カタカタちゃんはすっかり寒くも怖くもなくなりましたけど、はたしてどうして元の草原へ戻ればいいのか分かりません。

 壁をよじ登るのは無理そうだし、ジャンプしても届きっこないし……。カタカタちゃんが試しにジャンプしてみると、不思議なことにグングン空が近づくではありませんか! グングングングングングングン……。長い長いジャンプの後、元の草原に戻った頃には夜空に星が瞬いていました。

「あ、きれい」

 カタカタちゃんはそう言うと草のベッドで眠りました。



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