第3話 全員集合(ハガネ)
(ハガネ)
ハガネの視界の端に、大きな鳥が入る。
「見つけた」
そう呟いてハガネは走行中の自走者を飛び降りる。転がって衝撃を殺してそのまま走る。走りながら標的の位置を確認する。大きな鳥だ。腹のあたりが不自然に膨らんでいる。そこに金色が見える。カンガルーのような袋の中にメグが入っているようだ。
鳥の大きさは三メートルくらい。対象物がなく大きさがつかみにくい。スピードはそれほど速くはないが、ハガネは道路に沿ってしか動けないため、真っすぐ進まれると厄介だ。
飛んだままなのは面倒なので、とりあえずハガネは鳥を地面に落とすことにする。
周りは平屋か二階建ての建物ばかり。そこに比べればずいぶん高い位置にいるように見える。ハガネは十メートル程度と推測する。十分届く。
ハガネは刀をしまっている別空間の倉庫の中を探す。レンから渡されたナイフがあることを思い出す。刃渡り十五センチ程度の細身のナイフ。鍔もないため投擲に使える。よく見ると何やら細かい紋様が彫られている。魔術的な効能がありそうだがハガネは気にしない。刀身は欠けの一つなく美しい。全部で四本。
ハガネは助走をつけて連続して二本投げる。ナイフは真っすぐに飛び、一本は鳥の首筋に刺さり二本目は右翼の根元に刺さる。ハガネの狙い通りだ。鳥は空中で一度バランスを崩すがすぐに立て直す。与えた傷は浅い。距離がある分威力が落ちているようだ。鳥は高度を上げて逃走しようとするが速度はだいぶ遅くなっている。これなら見失うことはない。しかし落とさないと倒せない。
「ここで倒すの?」
DDの声がする。かすかに虫の羽音がする。
「もう少し高度が下がれば倒せる」
「ハガネは跳べないからねえ」
赤い色のカナブンが右手にとまる。DDが使っている偵察用の小型機械だ。声を出すタイプは珍しい。
「あそこに届くのはナイフくらいしかない」
ハガネは残り二本のナイフをカナブンが見えるように示す。
「あ、ロゾの宝剣だ。さっき投げたのもこれ?」
DDの質問にハガネが頷く。
「あんまり乱雑に扱うとレンが怒るよ。まあでもロゾがあるなら簡単か。ちょっと見せて」
両手に一本ずつ持って掲げる。カナブンはハガネの右手からが飛び立ちナイフの目の前で静止する。
「うん。右手のナイフをあの鳥に刺して」
「こっちか。刺すだけでいいのか」
「刺ささればいいよ。それは魔術剣だから、それで地面に落とそう」
カナブンはそのまま飛び去る。
「ぼくが呪文を詠唱するから。近くに行くまでちょっと待ってて」
鳥は高度を上げてゆっくり城のほうへ移動している。ハガネに反撃する気はない。メグを手に入れる方が大事なのだろう。
ハガネは鳥との距離を縮めるために近くの家の屋根に上る。平屋の屋根の上の鳥を狙える位置に移動する。ハガネはカナブンが鳥に取りつくのを確認してナイフを投げる。
ナイフは鳥の胸元に刺さる。
傷自体は深くはない。鳥はそのまま飛び続けようとする。落ちた時のためにハガネは鳥の真下へ移動する。
鳥に刺さったナイフが少し光り空中に魔法陣が現れる。鳥の動きが鈍くなる。うまく羽を動かせないようだ。鳥はゆっくりと降下する。鳥は足から地面に降り立つがそのままくずれ落ちる。
ハガネは地面に倒れた鳥の首をはねる。袋からメグを回収する。
「メグちゃんは無事だね」
メグは意識を失って眠っている。
ハガネは刺さったナイフを回収する。
「何をしたんだ」
「今回は老化の呪文。刺したナイフの種類で効果が変わるの。墜落したらメグちゃんがケガするから老化にしたの。ロゾの宝剣はいろいろと便利だよ。使い方覚える?」
「興味ない」
カナブンはメグの周りを浮遊している。
「メグちゃんを教会に連れて帰りたいんだけど?」
「俺は城に行く」
「……じゃあ城にする。メグちゃん運んでくれる?」
「城まででいいなら」
「それでいいよ。自走車を捕まえよう。メグちゃんは有名人だから事情を話せば手伝ってもらえるよ」
ハガネがメグを抱える。止まっていた自走車の運転手に事情を説明する。メグを見た運転手は二つ返事で乗せてくれる。確かに有名人らしい。
「城に連れて行って大丈夫なのか?」
「デレク王子の手に渡らなければいい」
ハガネはDDに聞いたのだが、カナブンからレンの声が答える。
「お守りをするつもりはないぞ」
ハガネは安らかに眠っているメグの横顔を見る。
見た目が似ているわけではない。ただ、その性格が、その所作がハガネにリコを思い出させる。そして思い至る。リコが生きているなら同じくらいの年齢だ。
生きているなら?
ハガネは自分の頭に浮かんだ問いを否定する。
生きている。何を考えている。
「レン。先に俺の用事を済ませる。この娘を引き取れ」
こんなことをしている場合ではない。レンに付き合っている場合ではない。リコの手がかりがそこにいるんだ。
「……分かった。DDを向かわせている。城に着く前に合流するはずだ。DDに預けてくれ」
少しの沈黙の後に返事が来る。
「すぐ終わらせる」
ハガネは誰にともなく言う。答えはない。
「ハガネはすぐお医者さんのところに行くの?」
カナブンからのDDの問いにハガネは頷く。
その問いかけと同時に走行中の自走車の窓からDDが入ってくる。
DDは眠っているメグを観察する。脈と呼吸を確認する。顔の汚れを拭いて髪をとかして一通り身だしなみを整えた後、体中をペタペタと触っている。
「どこか悪いのか?」
「いいや、ちょっと研究」
「そうか」
小指を口に入れている。ハガネはDDがたまにそうして他人の唾液を採取しているのを見ているが何のためかは考えたことはない。ハガネはDDがアンドロイドということに気付いていない。いや、そもそも興味がない。
「ハガネはメグちゃんには優しいけど王女様にはそうでもないよね。何が違うんだろう?」
そうだろうか? と思うだけでハガネは返事をしない。
「妹さんに似てるの?」
妹という単語を聞いた瞬間に、ハガネの頭の中にいくつかの光景がよみがえる。ほんの短い時間。ある日の光景。家のテーブルでの食事の時の、暑い日の川辺の、買い物帰りの街の、学校で見かけたときの、神社での風景。燃える街と荒らされた社殿と母の死体とたくさんの死体の風景。何度も思い出して、永遠に忘れないように心の中に踏み固めた光景。
「顔が怖い」
DDがむくれている。表情に出ていたらしい。ハガネは肩をすくめる。
「別に、似てはいない」
実際に似てはいない。
「ん……」
メグから息が漏れる。覚ましたよう――。
「ルルさ、まあっっ」
勢いよく起き上がってDDとぶつかる。
「痛い……あ、DDちゃん。大丈夫? あれここは?」
顎を下から強打したDDが一瞬固まる。
「あ、ハガネさん。おはようございます。や、違う、ルル様、ルル様は?」
「大丈夫だよ。ルルちゃんは教会だから」
復活したDDが説明する。
「教会? じゃあ無事なんですね。よかった……」
安堵の表情を浮かべる。DDとぶつかった頭をさすりながら気づく。
「DDちゃんは大丈夫ですか?」
DDは元の体勢に戻っているが無表情なのが少し怖い。
「DDは大丈夫。ちょっとだけ、再起動中……日常モードのままだったから今、変更中」
DDが何か言いながら笑顔にもどる。
「そうですか? えっと……?」
メグは状況が分からず戸惑っている。
「メグちゃんは悪鬼に攫われて、それをハガネが助けたのです。今お城に向かっています」
DDが状況を説明する。
そういわれて自分の状況を思い出したらしい。メグは少し青ざめ、ハガネを見る。
「昨日から助けてもらってばかりで。ありがとうございます」
メグが畏まってお礼を言う。ハガネは改まって感謝されるほどのことをしたとは思っていない。
「ハガネは基本的に無口で不愛想で目つきが悪くて怖いけど、小さい子には優しいから」
「はい、そうですか? え、ん?」
メグが少し引っ掛かりを覚える。
「ところで城に入りたいんけど、メグちゃんは顔パスで入れる?」
「え? 城ですか。はい。私は城の人には顔が利きますから、多分何も言われないと思いますよ」
気を取り直してメグが答える。
「じゃあ問題なしだね」
DDが小声でレンと通信している。
「レンはもう着いてるって。ぼくとメグちゃんもレンに合流するよ」
頭の中から余計なことが消える。障害を排除して、情報を引き出す。それだけだ。それだけのためにここにいる。
城に入る前からハガネは不穏な気配を感じる。しかし門番は何もないかのように普通に仕事をしている。
メグさんが門番と一言二言話すと三人は何事もなく中に通される。
「え?」
「ん?」
先だったメグが声を上げる。メグの異変をDDが感じ取る。ハガネも続いて城門をくぐり異常を確認する。城の中は極彩色の空間に変わっている。
「なんですかこれ、うう、気持ち悪い」
メグは目をつむって座り込む。
「なに? どうしたの?」
「視界がおかしい」
DDの問いにハガネは簡潔に答える。DDはメグさんを介抱しながらつぶやく。
「レンも昨日そんなこと言ってたね。神経に干渉しているのかも」
「DD、ターゲットはどこだ」
DDの疑問には答えずにハガネは用件を言う。
「お医者さん? んーとね。部屋にいるね」
「……レンと合流できるか?」
「大丈夫。ぼくは何ともないから。ハガネ、この子が案内するからついていって」
DDからさきほどの赤いカナブンが飛び立つ。ハガネは二人を残してカナブンの後に続く。
城の中に人の気配はあるが悪鬼の気配はない。視界はペンキをめちゃくちゃにぶちまけたような極彩色の空間が広がっている。建物はその原型を残していない。
視界はおかしいままだがハガネは特段気にしない。おかしいのは自分の視覚だけだ。ハガネは素直にカナブンに従う。
ハガネは建物に入る。カナブンはまっすぐに階段のほうへ飛んでいく。見た目はおかしいが、階段の位置に階段のようなものはある。建物の構造自体は変わっていない。
階段を上がってすぐの壁にカナブンがとまる。部屋の扉があるのだろう。カナブンの位置に手を伸ばすとハガネの手がノブに触れる。ノブを回す。鍵はかかっていない。ハガネはその部屋に入る。城に入ってはじめて人の存在を認識する。視界が元に戻る。音も匂いも元通りになる。アルコールと食べ物の匂いがする。ハガネは奥へ進む。ソファでくつろぐ人物と目があう。オクセアと呼ばれている医者だ。
「人がいるとは。デレク王子もまだまだ使いこなせていませんか」
「『劇団骸蝕』のカトス・グラか?」
男のつぶやきを無視してハガネは男に問う。その名を聞いて男の動きが一瞬止まる。男はゆっくりとグラスをテーブルにおく。しばし時間をとって答える。
「とぼけたところで調べはついているんでしょうね。久しぶりに聞いきましたね、その名前は。何の用ですか?」
「四年前。ココノエのミスズ村」
ハガネは故郷の名前を告げる。故郷の名前を口にしても、今のハガネは何も感じない。心は鈍感になる。
「ココノエですか。確かにそのあたりで活動していた時期もありましたが……」
カトス・グラと呼ばれた男はグラスを取り上げ一口飲む。少し余裕を取り戻したらしい。
栓を抜かれたワインの瓶がテーブルに二本おかれている。
「一つ一つの出来事までは覚えていませんね、正直なところ。なにか情報をいただけるのであれば、手助けはできます」
ハガネは異形の気配を感じ取る。一つ、いや二つ。それが男の余裕の正体のようだ。
「閉じた鳥の巫女」
ハガネの言葉にカトス・グラの表情が変わり笑みを浮かべる。
「閉じた鳥の巫女ときましたか! 覚えていますよ。あれは本物でした。あれほどの力は珍しい。ずいぶんと世話になりました」
ハガネは興奮する相手には構わない。
「巫女は今どこにいる?」
「今ですか? それはわかりかねます」
男の自嘲めいた表情、憐みの目。それだけでよい答えは得られないことをハガネは悟る。
「私たちはずいぶん前に壊滅、そう、壊滅しました。それぐらいは調べていると思いますが」
そのことをハガネは知っている。『劇団骸蝕』は二年ほど前に壊滅した。正確な原因は不明。武装警察や『狼』と争ったという話や内部分裂したなど、噂は無数にある。
その際に生き残ったメンバーは散り散りになった。ハガネは一人ひとりを探し出すのに苦労している。その中に一人でも巫女の居所を知っている者がいればいいと思っている。その上で『劇団』の生き残りを全員殺す。それがハガネの目的だ。
「巫女について知っていることをすべて話せ」
「思い出話もいいですが、私になにかメリットはありますか?」
「苦しまないで殺してやれる」
カトス・グラの表情が曇る。
「情報だけ引き出して殺しますか。わかりやすい復讐者ですね。私もいろいろと恨みを買っている身です。はいどうぞはいきません」
カトス・グラはグラスからワインを床にこぼす。
「私は私の目的のために動いています。閉じた鳥の巫女もガザの精霊もそのための手段です」
床に落ちた水が広がり、人型が立ち上がる。さらにカトス・グラはボトル中身も床にぶちまける。人型が大きくなる。
「メジュラの神獣、といってもご存じないでしょうけど」
魚に手足が生えたような化け物の形が現れる。手には細い剣をもっている。
「本来はこんな形だけのレプリカに戦闘能力はありませんが、『欠片』の力を使って本物に近づけました。テストにはちょうどいい」
ハガネは刀を抜く。神獣といわれた魚は立ったまま動かない。ハガネは中段に構え一歩、二歩と近づく。刀の切っ先が何かに触れる。何もない空間になにかがある。ハガネは無視してもう二歩近づき気づく。これは水だ。神獣の周りが水で満たされている。ハガネはさらに近づく。ハガネは水の中に入り呼吸ができなくなる。
ハガネの呼吸と動きが制限される。なるほど、神獣か。しかしハガネはかまわない。ハガネは刀の間合いに入り斬ることしか考えていない。
魚人がこちらを向き剣をふるう。水中にしては早いが、ハガネの回避が間に合う。小さく、抵抗を最小限に抑えて動く。さらに追撃を刀で受け止める。
ハガネは左手でもう一本、刀を手に取る。倉庫の中は水に支配されていない。手持ちの中で一番薄い刀を取り出す。少しでも角度を間違えたら抵抗で刀は折れる。しかしハガネは間違わない。倉庫の中で速度をかせぐ。そのまま取り出す。手首の動きだけでほとんど抵抗を受けないまま、刀を走らせる。刀は神獣に食い込み、切り裂く。
右腰から入った刀が神獣を真っ二つにする。
一瞬の停止。その後神獣が崩れ落ちちる。
水が重力に従い床に落ちる。ハガネの呼吸が戻る。消滅する魚人を無視してハガネはカトス・グラに近づく。カトス・グラが左の懐から銃を取り出そうとする。ハガネはその動きを無視して左手の指を斬り上げる。斬れた中指が宙を舞う。中空で中指についていた指輪を二つに斬る。もう一つの異形の気配が消える。苦悶の表情を浮かべながらカトス・グラが懐から取り出した銃を放つ。二発。ハガネは避ける。三発目が放たれる前に銃身を切り落とす。
「閉じた鳥の巫女について知っていることをすべて話せ」
ハガネは先ほどの言葉を繰り返す。
カトス・グラの表情が変わる。焦りの色があらわれる。
「『劇団』が壊滅した後のことは知らん。たしかに、そこまでは一緒にいた」
「二年前までは生きていた。間違いないか」
「そうだ。それまでは生きていた。あの巫女の力は本物だ。殺すようなことはしない」
二年前までは生きていた。ハガネはその情報をすでに得ている。二人目の証言。この情報は間違いない。
「他には? お前はナンバースリーだったと聞いたが?」
「詳しいな。情報源を知りたいところだ」
情報源はレンだが教える必要はない。ハガネは刀を首元に据える。
「何が知りたい」
「『劇団』が壊滅した時の状況と、その時の巫女の様子。あとは生き残った団員のこと」
カトス・グラが語り始める。カトス・グラが頭の中でこの状況をどう切り抜けるかを必死で考えているのがハガネにはわかる。時間稼ぎだろうが情報を得られているうちはハガネの刀が動くことはない。
「……最後のときか。……あれが何だったのか詳細は分からない。今更確認をする気もない。スタイツはどこかの軍と言っていたか。主力の戦闘部隊は全員殺された。幹部連中で逃げ延びたのも数人だ。全体で何人生き延びたのかは確認していない」
カトス・グラがこちらの様子を見る。ハガネは黙ったままだ。カトス・グラが話を続ける。
「団長が逃れたのは確認した。おそらく巫女は連れていなかった。襲ってきた連中に保護されたのかどさくさに紛れて逃げたのかどちらかだろう。一緒にいた女もいなくなった」
「一緒にいた女?」
「巫女がいた村から一緒にさらった女だ。姉妹と言っていた。そのうちの一人が最後まで生き残った」
ハガネは思いだす。おそらく村長のところの姉妹のことだ。あの姉妹なら状況を利用して逃げるくらいはするだろう。
「他の女は?」
「そのころにはみんな死んだ」
嬉しい情報ではないが新しい情報だ。いや、リコと村長の娘のどちらかは二年前までは生きていた。そしてまだ生きている可能性がある。とてもいい情報だ。
「取引をしよう。『劇団』は壊滅したがまだコネクションは残っている」
「団長ともか?」
「……ああ、もちろん団長とも連絡は――」
カトス・グラが言い終わる前にハガネは耳を切り落とす。
「嘘はつくな」
「……」
カトス・グラの目の色が変わる。
「今さら巫女と再会してどうする? もはや人としての機能など残っていないぞ」
人としての機能など残っていない。その情報もハガネは知っている。そこも裏が取れる。
「その顔は知ったうえでか。酔狂だな」
「壊滅した場所はゲニト領か?」
「……ゲニト領の、トトリア渓谷だ」
「生き残った幹部メンバーは何人だ」
「……あの場で死亡を確認したのは七人だ。だから、生き残りは五人だ。誰かに会ったか?」
これもハガネにとっては新情報だ。質問には答えずにハガネは質問を続ける。さらに詳しく聞き出す。生き残った幹部連中の名前、外観、バックグラウンド、能力。カトス・グラの口からすべてすらすらと出てくる。『劇団』を率いていたのは団長と言われていた男のカリスマだが、実質的に『劇団』を運営していたのはこの男だとレンからは聞いている。巫女の情報もしゃべらせる。最後に至るまでの過程、最後の様子。
ハガネは必要と思われる情報をすべて聞き終える。
「ずいぶんと口が軽いな」
「いやね。楽しみなんだよ。あの娘の恋人か何かか知らんが、あの状態であることを知ったうえで会いたいというのなら協力しようじゃないか。どれくらいの情報を得ているかは知らんが、貴様が思っているよりもひどい状態であることは保証する」
カトス・グラはここから生きのびることを諦めたようだ。
「ははははは、楽しみだな。『劇団』の残党を皆殺しにして巫女に会ってハッピーエンドになるとでも思っているのか? とんだ楽観主義だ。『欠片』の力でも使って元に戻すか? そこまでは試したことはないが、あれは神の御業の代償だ。そう簡単には元に戻せんぞ」
すべて承知の上だが、わざわざ伝える必要はない。
「もう終わりか」
「ああ、もうしゃべることはない。再会できるといいな。あの世で見せてもらう」
ハガネは首を斬る。刀をハガネドアに向かって歩き始める。
カトス・グラの首がずれて床に落ちる。血が噴き出る。体が崩れ落ちる。床に落ちた顔は笑顔だ。ハガネをあざ笑っている。その顔をハガネは見ない。
ハガネは自分が酔狂なことをしているのは知っている。リコの状態も。
だから何だというんだ。
これは復讐であり贖罪だ。村と家族と妹への。それ以外にハガネが生きる意味などない。
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