第1話 それぞれの到着(レン)
(レン)
時刻は昼下がり。ここは通り沿いのカフェのテラス席。普段は仕事中のビジネスマンで賑わっている人気店なのだが、昨日からの連休で本日は閑散としている。
レンは昨日見つけた論文集を斜め読みする。休日にもかかわらず黒のスーツをきっちり着こなしている。完璧にフィットした服装。そして姿勢よく椅子に座り、何かを思案しているその横顔なかなか画になるものだ。レンは本を読みながらも周囲への警戒は怠っていない。彼は裏の世界の人間である。
本のタイトルは王立先端精霊学会論文集。精霊学はこのあたりの領域――ガザとその周辺の地域――では当たり前の学問である。ガザでは精霊が生活の根幹に存在している。通りを走る車の動力も昼食のパスタを茹でた火力も精霊の力によるものだ。これはそんな精霊利用の最新研究をまとめたものだ。ほとんどが軍事関係のテーマであるため、極秘扱いで金庫に保管されていた。銃火器、神経ガス、人工筋肉などなど。レンが想像していたよりも精霊の応用範囲は広いらしい。
「レン」
呼ばれてレンは読んでいた本から視線を上げる。テーブルの対面に座った少女が視線を彼方に向けたままレンに話しかけている。華奢な体に黒髪のショートカット。少年にも見える容姿をしているが本人は女性型だと主張する。気にしているのか服装は可愛いらしいものを好む。今は襟付きの白いワンピース。気に入っているのかここのところよく着ている。それと花の髪飾り。
彼方から視線を外さないのでレンは彼女と同じ方向に視線を向ける。この国で一番大きく豪華な建物である城が、小高い丘の上に鎮座している。
「DD(ディディ)、何か変化があったか?」
城までは五キロほどあるが、DDにはその程度の距離は関係ない。
「神輿がでてきたよ。ほんとにお祭りなんだね」
明日からガザでは精霊への感謝を捧げる年に一度のお祭りである。基本的には仮装パーティである。精霊を象った扮装をした人々が町中を練り歩いたり、踊ったり、演劇をしたりと、町中のいたるところで催し物が開催される。城から出てきた神輿はこの国の守り神、守護精霊の乗りものだ。前夜祭に当たる今夜は城から出て実家である街の教会で過ごすという決まりがある。
「昨日話しただろ?」
「神輿に用があるの?」
「いや、用があるのは守護精霊が離れた城のほうだ」
「じゃあ神輿は追わなくていい?」
「ああ、城だけ観察していてくれ」
「了解」
DDは視線をそのままに返事だけをする。望遠レンズで観察しているからだろう、さきほどから微動だにしない。人として不自然な振る舞いはするなとレンは日ごろからDDに言っているが、今の場合は仕方ない。DDは見た目が人形のように整っているので、こうして動かないと完全に人形にしか見えなくなる。人形と一緒にカフェのテラス席で食事をするスーツ姿の男。仮装パーティの最中であれば変ではないかもしれない。
ガザが現王国に統一されて二百年余り。王国は長い平和を謳歌している。周辺の領域と違いガザには脅威となるような妖魔の類は存在しないため、人間同士の争いが終結し抵抗、領域内の脅威となるものは自然災害くらいしかない。
歴史的には精霊がいるから妖魔が入り込めなかったというほうが正しいようだ。精霊は半物体半意識体の一種である。実体は希薄だが触ろうとすれば触れられるらしい。自我があるかといえばやや疑問だが、人間の意思に反応するので意識はあると思われている。実存も意識もどちらも中途半端な存在だ。ファンタジー世界の精霊にイメージが近いため、ガザの人間も領域外の人間も一般的には精霊と呼んでいる。レンのように領域間を旅する者にガザの精霊と言えばだいたい通じる。
ガザの精霊は人間種族との意思疎通に旺盛であり、なぜか人の思い、願いといったところを叶えたがる性質がある。火が欲しいと思えば火をおこす。空を飛びたいと思えば飛ばしてくれる。もちろん限度はある。瞬間移動をしたいや、石を金に変えるといった大きなエネルギーが必要なことは難しい。また、何もないところにパンを出したり、嫌いな人を消したりといった物質のそのものを操作する例もほとんど報告されていない。基本的にはエネルギーの操作に相当する役割を果たす。また、どの程度扱えるかは個人差がある。マッチ程度の火なら大抵のガザ人は起こせるが、キャンプファイヤーくらいの火を起こすことができる人間は限られている。
精霊は基本的には人畜無害な存在であり、人との間にいざこざはない。自分たちの仲間を増やしたいとか縄張りを増やしたいとかいう欲望はないようで、人間の相手をしながら平和に暮らしている。半物体の生物の例にもれず、老いも死もないためだろう。
ガザには電気や蒸気機関は発達していない。すべて精霊で代用できるからだ。ランプも車もオーブンも機織り機も精霊が駆動源になっている。
レンの前においてある冷めた食後のコーヒーを温めることも簡単にできる。
例えばこんな風に。
レンは意識を集中する。温かいコーヒーをイメージする。温める方法をイメージする。火?いやレンジのような水分子運動のほうが簡単か? しばらく集中すると、何かの気配を感じるようになる。精霊だ。こちらの意思を確認して実行しようとしている。
しばらくするとコーヒーから湯気が立ち上がった。無事に温まったようだ。
この町に来て六日目。レンは一通り精霊を扱うことはできるようにはなったが、ガザの人々に比べたらまだまだだろう。このくらいは子供でもできる。この程度は実戦では使えない。もちろんレンも短期間で戦闘に使用できるほどの力を手にすることは期待していない。
今回ここにいる目的は、城にあるモノを手に入れること。正確に言えば城にいる人間が持っているモノを手に入れること。城の構造、人間関係、ガザの習慣など必要なことはこの六日間で調べ終わった。今夜が実行日。夜までは特に予定はない。こうして最後の敵情視察をしながら一息入れている。
「今日はゆっくりなんですね」
レンとDDがこの街へ来て六日目でこの店に通うのも六回目だ。店長の娘のメグというこの店員とも顔なじみになっている。
「ああ、昨日で仕事は一通り片付いたから今日は一日ゆっくりできる」
「いいですねー。わたしは閉店まで仕事です。それにお祭り終わるまで休みなしです」
メグはさほど不満をもっていない明るい声で言ってくる。仕事が楽しいのだろう。
店にはレンたち以外に遅い昼食を食べている客が二組いる。店員はこの娘が一人だけ。祭りのメインは教会のある西町の方で、ここは南町で主に住宅街とオフィス街だ。連休中、しかもガザ最大の祭りである帰還祭の最中であるため人はほとんどいない。人々は休みを取って祭りに出かけている。
「他の子がみんな休んじゃったから私が出るしかないんですけどね。父さんも教会にお手伝いに行ったから昨日からずっと私一人です。いえ、忙しいとかじゃなくて話し相手が欲しいだけです」
メグが昨日からやたらとレンに話しかけてくるのは話し相手がいなかったかららしい。
「おかげで君からもこの町のことをいろいろ聞けたから、私としてはありがたかったよ」
レンは昨日はほとんど一日メグの話を聞いていた。最近の町の様子や王族の話など、いずれ事細かに聞く予定だったので話かけてもらったのはレンにとっても都合がよかった。
「そういってもらえるとお店を開いているかいがあります。あれ、コーヒー温めたんですか?言ってくれればよかったのに?」
レンは自力で温めたコーヒーを一口飲む。ちょうどいい温度。
「精霊の力を試したかっただけだ。なかなか便利ではある」
レンはコーヒーをテーブルに戻して得意げに答える。
「すごいですね。外の人で精霊を使える人は珍しいですよ。私たちはもうこれが普通なので実感はないですけど、外から来た人はみんな便利っていいますね」
そう言いつつメグはコーヒーを一瞥する。適温のコーヒーが沸騰する。とすぐに氷点下まで下がってコーヒーアイスとなる。次の瞬間には元の適温にもどる。こうも簡単にやられると、レンのここ数日の努力がむなしいものになる。
「精霊の操作にも個人差があると聞いているが、君は比較的上手なほうなのかな?」
「うーん、そうですね、自分で言うのもなんですが、私は上手なほうですね。ほんとは私くらいの人は教会とか城で働くのが普通なのですけど」
ちょうどいいから昨日聞きそびれたことも聞いておくことにする。
「そのあたりは昨日聞かなかったな。城のほうは警備とかそういうことだろうけど、教会は儀式的なことか?」
「司祭様とかはそうですね。平たく言えば、精霊さんがへそを曲げたら私たち生きていけないので。うまくコミュニケーションとってご機嫌を取るお仕事です」
「精霊は人間には何も求めてこないと思っていたがそうでもないのか?」
「いえ、基本的には何も求めてきませんけど、今日みたいに帰還祭だったり、ほかにもお祭りしたり、お祈りしたりはしないといけません。そのあたりを疎かにすると災害が増えたり、最近だと悪鬼が増えたり、いろいろあるそうです。私は操作方面は得意ですけど、コミュニケーションの方はあまり得意じゃなかったので、教会からはスカウトはなかったですね。教会は将来安泰のホワイト職場なので人気は高いんですよ?」
悪鬼というのは精霊における唯一とも言える弊害だ。精霊がプラスの恩恵をもたらしたときのマイナス側。プラスとマイナスのバランスを保つための便利の代償。使いすぎた精霊のストレスのはけ口などいろいろ言われている。電気社会における環境問題や公害問題のようなものとイメージは近い。便利にいろいろと使いすぎるとしっぺ返しをくらうということのようだ。
通常は問題となるような悪鬼は年に数回現れるかといったところだが、ここ数か月は毎日のように発生している。それがガザの目下の問題点。原因は不明、というわけでもない。だれかが精霊の力を乱用しているのだ。それが誰なのか、レンは知っているが、ガザの人間はまだわかっていない。
「城のほうにはスカウトされなかったのか?」
「城のほうは、警備とか警察関係とかの体力系か、いろいろ研究している学者さんですからね、どっちも苦手です」
「しかしウェイターをするにはもったいなくないか?」
「うーん、どうなんでしょうね。私レベルの人はいるにはいるというか。そんなにレアってわけではないとは思います。私、小さい頃はお城で育ちましたからよく知っていますよ。あそこは精霊を使うのが上手な人がたくさんいますから」
メグの母親は元城付きのメイドで、この娘は年が近いルル王女と一緒に育てられたそうだ。レンがこのカフェに通いつめているのはこの娘から城の情報をいろいろ聞き出すためでもある。
「デザートでもいかがですか?」
メグは一通りおしゃべりをして自分の立場に気づいたらしい。
食事を終えた皿を下げながら笑顔を向けてくる。下げるといっても皿は宙に浮き厨房まで飛んでいくだけで本人は一見何もしていない。一人でも忙しくないと言っていた通り、仕事のほとんどは精霊がしている。皿を洗うのも精霊だろう。
「DDちゃんも何かいかがです?って、さっきからDDちゃんが反応してくれなくて寂しいんですけど……」
隣に座った少女、DDはじっと城の観察を続けている。指示に忠実なのはいいが、もう少し臨機応変な対応をしてほしい。
「城が気に入ったらしい。さっきからずっとこんな感じだ。DD、何か食べるか?」
「アイスクリーム」
間髪入れずにDDから返事が返ってくる。反応はしなくても会話は聞いていたらしい。
「DDはアイスクリームを所望します。メグちゃん」
DDは城から視線を外してDDにニッコリ微笑んで返事をする。
「承りました。チョコでいいよね。チョコレートアイス二つということで。お待ちください」
レンの分が追加されているが、レンは気にしないでおく。
メグが厨房へと戻ったところで、レンはDDに尋ねる。
「もういいのか」
「お城のほうは変化なし。みんなで神輿を運ぶのは楽しそうだけどそっちはいいんでしょ?頭も疲れたし、休憩!」
言いながらDDはメグの動きを目で追っている。動きの参考にしているのだろう。精霊の力を借りているとはいえ一人でフロアと調理のすべての業務をこなしているのは並みのことじゃないだろう。動きに無駄がない。
DDはアンドロイドだ。レンが二年ほど前に仕事で入った遺跡の中で、スリープモードとなっているところを見つけた。DDはメモリの一部が失われており、自分の存在理由を忘れている。いろいろあった後、成り行きでレンの仕事を手伝ってもらっている。本人曰く諜報活動用に造られたものだそうだ。軽い身のこなしと付属の機能をみてもその通りなのだろう。レンは現在までに製造元に関する情報は得ていない。直接の戦闘能力は高くはないが、いろいろと役に立っている。先ほどのように望遠で対象を観察したり、潜入捜査をしたりと、レンの調べものの効率は格段によくなった。また、見た目から警戒心を持たれることがないので、情報収集がやりやすくなっている。
「カナブンからはなにかあるか?」
「特に何も。みんな大人しくしているよ」
DDは小型の探索機をいくつか城に放って各所を監視している。カメラとマイクと駆動部だけのシンプルな機械である。見た目が虫のようなので彼らはカナブンと呼んでいる。
「お仕事終わったらお祭りに行ってもいい?」
「祭りに興味があるのか?」
「うん。人がたくさんいる」
DDの趣味は人間観察だ。レンがちょくちょく動きに注意を入れるので、人間らしい動きを研究しているようだ。向上心があっていいとレンも推奨している。
「なにごともなければ行ってもいい」
祭りどころじゃなくなっている可能性は高いが、言わなくてもいいだろう。
「仮装とかするらしいよ?」
「好きにしろ」
「えへへ」
DDは嬉しそうだ。喜怒哀楽といった人間らしい振る舞いもだいぶ板についてきた。実際に感情があるかというのはレンにはわからないが、表面上人間にみえる所作を身に着けている。レンにとっては感情があるようにふるまうものと、感情があるものの区別をつける必要はない。
レンはDDの構造についてもそのうち真面目に調べたほうがいいといつも思うが後回しにしている。これほどの技術でアンドロイドを制作している例をレンは知らない。どこかの隠居老人の趣味にしては完成度が高すぎる。
「おまたせしました」
チョコレートアイスとケーキとオレンジジュースが運ばれてくる。
「これは?」
レンは注文していないケーキとジュースを指さし尋ねる。
「ケーキとジュースはお得意様へのサービスです。余りそうだったからというわけではございません」
「余計なことは言わなくていい」
「わーい。ありがとう」
「どういたしまして。追加のご注文があればお声かけを。あら、DDちゃん今日も髪飾り違うね。昨日は薔薇だったけど今日のは何の花?」
「マーガレットだよ」
白い花の髪飾りだ。
「マーガレットですか? うーん。知らない花ですけど、かわいいね。あ、お客さんだ」
メグはDDに手を振りながらテーブルを離れる。
「DD、これも食べるか?」
この店の唯一の難点はデザートが甘すぎるところだ。レンは自分の分のケーキもDDに渡してアイスだけいただく。冷たさで甘さが軽減されているとはいえこのアイスも十分甘い。
「ケーキは美味しいよ。糖分大事」
DDは人間ほどではないが食事はする。主なエネルギー源は電気だが、ガザのように電力が補給できない領域では食事から補給を行う。糖はエネルギーに、タンパク質は皮膚や髪などの体のパーツの材料になる。そのため甘いものと肉が好きらしい。
「ところでさ」
ニコニコしたDDがレンをのぞき込む。DDの青い瞳はよく観察すると人の眼球とは異なる構造をしている。カメラのレンズだ。奇麗すぎる肌も整った顔立ちも違和感はある。しかし、運ばれたデザートを食べる姿は人間の子供そのものだ。
「ハガネがいたよ」
「神輿でも担いでいるのか?」
「そうかもね。見る?」
DDは適当に返事をして左手の小指をレン差し出してくる。
「いや、いい」
レンはハガネが城にいることをカナブンの報告で把握している。まだ何もしないだろうとレンは楽観している。
「……」
DDが不満そうな顔をしている。プイッと向きを変えてもう一度城をみる。
[あああ、ハガネそんなことしちゃだめだよぉ」
わざとらしく声を上げる。
レンは周辺の気配をさぐる。メグは厨房に入って調理をしておりこちらが見えない位置にいる。他の客も離れた席に座っておりこちらを窺っている様子はない。
レンはまあいいだろうとDDの要望に応えることにする。
「わかった。見せろ」
ハガネをガザの城に来るように仕向けたのはレンだ。ハガネが自力で城に入り込めたのはレンの予想外だった。カナブンの映像では大人しくしているようだが、ハガネが何かのきっかけで暴走することがないとも言えない。ハガネにとっての爆弾も城にいる状況だ。様子ぐらいみてもいいだろう。
DDがうれしそうに差し出した左手の小指を銜える。すると目の前の風景に別の光景が重なる。レンが自分の目で見ているカフェで向かいのテーブルに座るDDと人通りのない街並みに城門の映像が重なる。神輿を運ぶ人の群れ。表情まで読み取れる。
「見える?」
「ああ」
レンは神輿のほうに焦点を合わせて目の前の景色を意識から外す。軽装備の警備と城の役人が多数。その中に一人服装の違う男がいる。周りの男に比べ背は低い。がっしりした警備の人間に比べると線も細い。ボサボサの黒い髪と精気の乏しい目。
相変わらずハガネの表情は死んでいる。
レンが今見ている光景はDDが見ている映像だ。DDの目は人の目よりも優れている。遠くのもの、小さなもの、赤外線や紫外線灯の電波も視覚情報としてとらえることができる。
それを今レンの網膜に投影している。左手の小指は外部出力装置。舌を通して私の神経に干渉してレンに映像を見せている。
DDの外部出力装置は他にもありそうだが、DDは小指を銜えさせるのを好む。おそらく唾液を採取したいのだろう。DDはそれで成分を分析し体調などの情報を蓄えている。
レンはレン自身の目的のためにガザに来ている。ハガネもハガネの目的がありここにいるが、情報提供の見返りとしてレンの目的を手伝うことになっている。そういう約束だ。
ハガネの表情が死んでいるのはいつも通りなのでレンは気にはならない。殺気は感じないからまだ対象には接触していないのだろう。スイッチが入ると後先考えずに無茶苦茶なことをしでかすことがある。ハガネなら城の人間を皆殺しにするだけの実力はある。警備や軍はいるだろうし精霊の力を使った兵器もそろえているだろうが無駄だろう。目的のために必要であれば躊躇はしない。倫理観はとっくにふっ飛んでいる。予定通り祭り本番の前に現れてくれたのはレンにとっては僥倖だが、少なくとも今夜までは大人しくしてもらいたいとレンは願っている。
ハガネは神輿を担いでいるわけではなく周りを警戒している様子である。そして警備の服装の人間を軽く話をして城に戻る。
カナブンから得た情報から推察するに、悪鬼を退治し、その実力を認められ、警備として雇われたらしい。最近、悪鬼が急増しておりガザはピリピリしている。ハガネの実力ならとりあえず手元に置いておきたくもなるだろう。
門から城に入ろうとするハガネがこちらを振り返る。ハガネとレンの目が合う。気づかれたようだ。
ハガネの生気のない青い瞳がレンにはよく見える。絶望を知り、穢れ汚れ淀んだ、銀色に見える青い瞳。
DDの指を離して指示をする。
「DD、ハガネに伝言だ。今夜はおとなしくしていろと」
「それだけでいいの?」
「ああしろこうしろと言って従うやつじゃない。下準備はこっちで進める」
明日になれば好きにしてくれてかまわないが、私の目的の邪魔はするなよ。
その後であれば自由だ。お前の故郷の仇もその城にいる。
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