第2話 結実の励まし
やってしまった…
僕は一人、個室トイレで落ち込んでいた。
どうして美香や結実に八つ当たりしてしまったのだろう。
自分が悪いことくらい分かっている。
結実の言っていることが正しいことくらい分かっている。
なのにどうして…
素直になれない自分が嫌いだ。
父さんや母さんよりも自分が死んだ方が、僕だけでなく美香も結実もよかっただろう。
いや、ここで僕が死ねば、美香の為にも…
「裕介!出てきなさいよ!」
ドンドンドンと、トイレの扉を物騒に叩く音が聞こえてきた。
「裕介の考えてることなんか、すぐ分かるんだからね!
なんてたって、16年の付き合いなんだから!」
この声は紛れもない、結実の声だ。
でも、なんで僕なんかのためにトイレに…ん、トイレ?
「お前、ここ男子トイレだぞ!」
「そんなの知ってるわよ!
私には関係ない!」
『私には関係ない』って、オイオイ。
普通に考えてダメだろ。
でも、なんでだろう。
結実の声を聴くと、いつもの調子に戻れる。
自分に素直になれる。
「さっきも言ったけど美香ちゃんだって、ママとパパをなくしちゃったんだからね!
美香ちゃんにとっての家族はお兄ちゃんのあんたしかいないんだから!」
そうだ。
父さんも、母さんも、兄弟姉妹はいなくて、じいちゃんとばあちゃんもとっくの前に死んじゃったんだ。
「唯一の家族であるあんたが、そんなんでいいと思ってるの!?
美香ちゃんはあんたしか頼れないのよ!」
そうだ、美香は僕がいなければ独りになってしまう。
僕がしっかりしないと。
僕は現実と向き合わなければならないんだ。
僕は個室トイレの鍵を開け、扉を開けた。
「裕介…」
結実は安心したような顔で僕の顔を見た。
ーーー
あれから暫くした後、火葬場で父さんと母さんに最後のお別れをした。
楽しみにしていた旅行がこんな形になってしまうなんて…
父さんと母さんの顔をみると、色々なことを思い出す。
釣りに行ったこと、母さんの料理を手伝おうとして火傷したこと、反抗期のころに沢山の喧嘩をしたこと…
いつの間にか目には涙が溜まっていた。
泣いちゃだめだ。
お兄ちゃんである僕がしっかりしなくちゃいけないのに。
でも、その思いとは反対に次々と涙があふれてくる。
「にいに、どうしたの?」
何も知らない美香が僕に尋ねてくる。
大粒の涙が沢山頬を伝うのが分かった。
「裕介、何も一人で抱え込む必要ないんだから、何かあったら私を頼って。」
結実がそっと背中を撫で言ってくれた。
ーーー
火葬場の送迎バスに向かう際、美香が奇妙なことを言い始めた。
「あ、あそこにママいるよー」
そんな訳ないと、美香が指差した方向を見ると、見慣れた女の人の影が見えた。
「母さん…?」
僕がそう呟くと、その影は消えてしまった。
「裕介、どうしたの?」
結実が心配そうにこっちを見る。
「いや、なんでもない。」
おかしいな。と思いつつも送迎バスに乗り込んだ。
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