第55話 林間学校part3

「ねえねえ。未来と小川くんって付き合ってるの?」 

「え?」


山道を歩きながら、田中さんが聞いてくる。 

ここはどう答えるべきか……

未来との関係は、あまり人に言いたくない。

クラスメイトの女の子の家で同棲しながら、オママゴトしてるなんてな。


「付き合ってないよ」

「えー!嘘でしょ?」

「本当だよ」


実際、俺と未来は付き合ってない。

ただ、愛花ちゃんのパパとママをしているだけだ。


「この前、トロピカンランドに2人で行ってたでしょ?」

「え?どうしてそれを?」

「あたしも彼氏と行ってたから」


マジかよ。

やっぱり学校の奴がいたか……

想定の範囲内のことだけど、いざクラスメイトに見られていたことがわかると動揺する。


「あれは……愛花ちゃんが行きたいっていうから」

「ふーん……そうなんだー」


田中さんはニヤニヤした。

絶対、付き合ってると思われてるな……


「あれ?1人いない子がいない?」


前を歩いていた佐藤さんが言った。


「たしかに……女の子が1人足りない」


俺たちが引率していた小学生は6人。

男子3人と女子3人だ。

今は、男子3人と女子2人しかいない。

……女子が1人足りない!


喋るのに夢中だった俺たちは、一緒にいる小学生をほとんど見てなかった。

勝手に着いて来ていると思っていた。


「ヤバい……探さなくちゃ!」


あたふたと、田中さんが焦りまくる。

もし小学生が遭難したら、俺たちの責任だ。

俺は周囲を見渡した。

林が見えるだけで、人の気配はまったくない。


「どうしよう……?小川くん」


佐藤さんが俺の腕をつかんだ。

泣きそうになっている。

小学生たちも、不安げな顔で俺たちを見ていた。


「おい。お前ら何してる?」


太田が遅れてやって来た。

女の子と手をつないでいる。


「もしかして……その子は?」

「この子が俺と一緒に歩きたいって言うから」

「はあ……よかったぜ」


俺は胸をなでおろした。

いなくなった女の子は、太田と一緒に歩いていたんだ。


「カス田!あんた、この子に変なことしたんじゃないでしょうね!」

「そうよ!このロリコン変態野郎!」


田中さんと佐藤さんが太田を責める。


「そんなことしてねえよ……」


大田は下を向いた。

いくら太田が最低でも、小学生の女の子に手は出さないだろう。

太田と一緒にいる女の子が、ぎゅっと太田の手を握っている。


「まあまあ……とりあえず無事でよかったじゃないか」


俺は2人をなんとかなだめる。


「小川。お前に庇ってくれなんて頼んでねえぞ」

「お前のためじゃない。みんなのためだ。楽しい林間学校が台無しにならないためにな」

「けっ……うるせえよ」


大田は吐き捨てるように言った。

……相変わらず嫌な奴だぜ。



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