第43話 海 part1

「海だあ!」


愛花ちゃんが浜辺を走る。

俺と未来と愛花ちゃん。

あと、未来の友達の桜田凛さんも一緒に。


「ケータ……大丈夫?」

「ああ……全然大丈夫だよ」


電車で2時間かけて、海へ来た。

唯一の俺は、4人の女子の重い荷物を持たされていた。

しかも真夏の暑い日に。

人から見れば、ただのパシリだ……


「小川くん!ありがとね!」


桜田さんが俺に笑いかけた。


「未来の水着姿、楽しみだね……」


俺に耳打ちする。


「え?」

「ちゃんと褒めてあげてね。未来はきっと、小川くんに見せたいはずだからさ」


桜田さんはニヤリと笑った。

正直、図星だ。

未来の水着姿に俺は期待している。

なんせ一緒に水着を買いに行ったんだから。


そう言えば、あの時、桜田さんは太田と一緒にいたな。

未来の話だと、太田とは別れたらしいけど……

ま、俺には関係ないか。


◇◇◇


「あはは!ちゅめたいだろー!」

「やったなー!」


未来と愛花ちゃんが海水をバシャバシャかけ合ってる。

2人とも水着姿がかわいい。

俺はレジャーシートを敷いて、パラソルを砂浜に差し込んだ。

夏休みだから、海には人が多かった。

だから俺がこうやって必死に場所取りしてるわけだが、2人はそんなことお構いなしに、海に突っ込んで行った。


「2人とも、子どもね」


桜田さんはクスクスと笑う。


「ああ、まったくな」


2人と遊びに行くと、愛花ちゃんだけじゃなくて、未来まで子どもに戻ってしまう。

まあ、そこがかわいいんだけどね。


「いいなー!未来はあんなにいいもの持ってて」

「いいもの……?」

「えーと……何でもない!」


桜田さんは顔を赤くして、手をバタバタと振った。


たしかに未来は、いいものを持っている。

桜田さんより大きい。

ただ、俺は別にそこの大きさにこだわらないが。

女の子はどうしても気にしてしまうんだろう。


「ケータ!凛!2人も早く来なよ!」


未来が笑顔で、俺と桜田さんを呼ぶ。


「おう!」


◇◇◇


「みんな!来てくれてありがとう!」


俺たちは海の家でお昼を食べている。

悠介が夏の間、海の家でバイトしていた。


「すげえ忙しそうだな」


お昼の12時。

一番忙しい時間だ。


「ああ。だから早く注文頼むわ」

「焼きそばを4人前で」

「かしこまりました!」


ささっと、悠介は厨房へ走っていく。

まだ働き始めて2日目なのに、ずいぶんと仕事に板についている。

あいつの環境適応能力には、いつも驚かされるぜ。


「悠介くん。バイト頑張ってるね」

 

店内をびゅんびゅん駆け回る悠介を見て、未来がぽつりとつぶやいた。


「そうだな」

「……ねえ、ケータ。忘れてることない?」


未来は手に腰を当てて、胸を張った。


「ほら」


桜田さんが膝で俺をつつく。


「あの時買った水着、すげえ似合ってるよ」

「かわいい?」

「うん。めっちゃくちゃかわいいよ」

「……なんか、あたしが無理矢理言わせたみたいじゃない」

「ぷっ!ははは!」


桜田さんが吹き出した。


「もお!凛!笑わないで!」

「ごめんごめん!ラブラブだなあって思ってさ」


俺と未来はお互い顔を赤くした。


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