第40話 トロピカンランドへ行くpart9
「お客様。お足元にお気をつけください」
俺は未来より先に乗り込んで、おんぶしていた愛花ちゃんを下ろした。
それから、未来の手を取る。
「きゃ!」
「おっと!」
転びそうになった未来を、俺は抱きとめる。
「大丈夫?」
「ケータ、ごめん」
見つめ合う俺たちを見て、スタッフのお姉さんはクスクス笑いながら、
「行ってらっしゃいませ!」
バタン!と、観覧車のドアが閉められた。
すーすー。
愛花ちゃんはぐっすり寝ていた。
寝顔は相変わらずかわいい。
子どもの頃に飼っていた、ハムスターを思い出した。
「愛花ちゃん、爆睡してるね」
「うん。幸せそうに寝てる」
未来は愛花ちゃんの髪を撫でた。
愛おしそうに、自分の妹を見つめている。
その姿は、本当のママみたいだ。
「ママがほとんど家にいないから、あたしがママの代わりをずっとやってたの。だからオママゴトしてなくても、あたしがずっとママやってる……」
前に未来から聞いたけど、未来と愛花ちゃんの「本当のママ」は、有名な化粧品会社の社長で、海外を飛び回っているとか。
だから未来が小さい頃から、ほとんど家にいないらしい。
「未来は偉いよ。妹の面倒をちゃんと見てて」
「ありがとね……」
未来は寂しそうな顔をした。
「でも……ときどき全部、投げ出したくなるの。学校のことも家のことも全部、どうでもいいやって。疲れちゃうっていうか。愛花のことも忘れて……ひどいお姉ちゃんだよね?」
観覧者が少しずつ、上がっていく。
俺たちは地上から離れていく。
「そんなことないよ。未来はよくやってる。いいお姉ちゃんだよ」
「ケータは優しいね」
俺には兄弟はいない。
子どもの頃は、兄弟がいたらいいのに……といつも思っていた。兄弟がいれば、俺だって寂しくないのにって。
だげど、兄弟にもいろいろあるんだろう。いいことばっかりじゃないんだろう。
まして未来はママの代わりまでしているんだ。きっと辛い時もあるに違いない。
「景色、きれいだね」
未来は窓を指さした。
すっかり地上から離れた俺たちは、空高くから遊園地の人々を見下ろしていた。
遠くには、俺たちの住む街が見える。
家の灯りが、夕闇の中で星のようにぽつりぽつりと浮かぶ。
「ああ、すげえきれいだな」
「あの家の中に、ひとつひとつ、家族がいるんよね。みんな寄り添いあって生きてるる。お互いに冷たくなった心を暖めて……ごめん。なんか変だあたし」
未来は窓の手を当てた。
まるで何かを感じ取ろうとしているかのように。
「ちっとも変じゃない。大事なことだよ。そういうの」
「……ケータって、本当に優しいね。優しすぎるくらい。ずっと、あたしと愛花のオママゴトに付き合ってくれて。ねえ……ケータは嫌じゃない?もしやめたいなら――」
「俺は楽しいよ。未来と愛花ちゃんと一緒にいるの。それに……どうせ家に帰っても、誰もいないしさ。一緒にいてくれて、嬉しいよ」
くるりと、未来は振り返った。
俺に微笑んでいるけど、目元がキラリと光るものがある。
「……ねえ、ケータ。お願いがあるの」
「何?」
「キスして……」
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