第39話 トロピカンランドへ行くpart8

「愛花!観覧車に着いたよ!」


俺たちは観覧車乗り場にいた。

未来が愛花ちゃんの身体をゆする。


「ううん……むにゃむにゃ……ボケモンゲットだぜぇ……」


俺に肩車されている最中に、眠ってしまった。


「もお……自分で観覧車に乗るって言ってたくせに」

「まあまあ、いいじゃない。今日はたくさん遊んだから」

「ケータ、ごめんね。肩車までさせちゃって」

「全然大丈夫だよ。いい運動になった」


愛花ちゃんが寝ているから、俺と未来は「パパ」と「ママ」じゃない。

今は「圭太」と「未来」だ。


「今日はありがとね。疲れたでしょ?」

「すごく楽しかったよ。まあ……いろいろあったけど」


オバケ屋敷でミイラ男に謝ったり、途中で愛花ちゃんがいなくなったり……

いろいろあってちょっと疲れたけど、正直めちゃくちゃ楽しかった。

あっという間に、時間が過ぎてしまった気がする。

こんなに純粋に楽しく遊んだのは、久しぶりだ。


「最後に、一緒に観覧車に乗ろう……ケータと未来として」


未来は俺の手をぎゅっと握った。

本当の俺たちは、まだ恋人ですらない。

だからこうやって手を握るなんてことは、おかしなことだ。

未来の手から、心臓が鼓動が伝わってくる。

俺の心臓も共鳴して、ドキドキしてくる。


「うん……トロピカンランドの観覧車はさ、日本で一番大きんだってさ」

「そーなんだ……」


恥ずかしさを誤魔化したくて、俺はとりとめもないことをしゃべりまくる。

うんうんと、未来はあいづちを打つ。

未来も恥ずかしいのか、上の空って感じだ。


トロピカンランドの観覧車は乗車時間が25分もある。

きれいな夜景を見ながら二人きりになれる空間。

当然、カップルがたくさん乗るわけだ。

俺たちの前に並んでいる人たちも、みんなカップルだ。

急に未来が、キョロキョロ周囲を見渡し始めた。


「どうした?」

「同じ学校の子、いないかなーと思って」


トロピカンランドの観覧車に乗ることは、学校では「陽キャ」の証だ。

実際、陽キャグループの連中が、トロピカンランドの観覧車に彼女と乗ってどうのこうのしたとかよく話をしている。

陰キャの俺が学校の人気者の未来と観覧車に乗ったなんて知られたら、たぶん学校で未来のファンに殺されるだろう。

未来はかわいくて勉強もできて、誰に対しても分け隔てなく親切だ。

だから女子にも男子にも、陰キャにも陽キャにもファンが多い。


「誰かいたか?」

「ううん……誰もいないみたい」

「よかった」


もしも、万が一、俺が未来と「付き合う」ことになったら、いったいどんな毎日になるんだろう。

すでに「パパ」と「ママ」として、恋人すらとっくに通り越したことしちゃってるけど……

上手く想像することができなかった。


「次のお客様どうぞ!」


ついに、俺たちの番が来た。

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