第38話 トロピカンランドへ行くpart7

俺たちはティーカップに乗ってから、それからいろいろな場所を回った。

小さな汽車に乗ったり、巨大迷路で遊んだりした。

もう夕方だ。辺りが薄暗くなり始めていた。


「愛花……眠い」


愛花ちゃんが目をこする。

朝から全力で遊んだから、かなり疲れてるようだ。


「そろそろ、帰ろっか?」


未来が愛花ちゃんの頭を撫でた。


「やだ!最後の花火までいる!」

「でも、愛花寝ちゃいそうじゃない。今度また来よう」

「また今度よりも、《今》が大事なの。だって……またいつパパとママと一緒に来れるかわかんないじゃん……」


愛花ちゃんは泣きそうな顔をしていた。

……わかっているんだ。愛花ちゃんも、この「オママゴト」がずっと続くわけじゃないってことを。

トロピカンランドの閉園時間は21時だ。

閉園の30分前になると、夜空に大きな花火が打ち上がる。とてもきれいな花火だ。

だから大抵の人は、最後まで残って花火を見てから帰る。


「……次はどこに行こうか?」


俺は眠そうな愛花ちゃんを抱っこした。


「次は……あれ!」


愛花ちゃんが指さした先には、観覧車があった。

トロピカンランドの一番有名な乗り物――「フラワーホイール」は、日本一大きな観覧車だ。

高さはなんと150メートルもある。乗車時間は25分だ。


「そうだね。トロピカンランドに来たなら、観覧車に乗らなくちゃな」

「パパ、観覧車して!」

「観覧車……する?」

「肩車のことよ」


未来が俺に耳打ちした。


「よし!観覧車するぞ!」

「わぁーい!」


俺は愛花ちゃんに肩車をしてあげた。


「わあ!高い高い!パパすごい!」


愛花ちゃんが俺の肩の上ではしゃぐ。

かかとが肋骨にガンガン当たりまくる。

地味に痛いぜ……


「こら!パパが痛いでしょ!」


未来が愛花ちゃんを叱る。


「だって嬉しいんだもん!パパの観覧車大好き!」


俺は愛花ちゃんの顔は見えないけど、本当に嬉しそうだ。

今まで聞いたことないくらい、元気いっぱいの幸せそうな声。

俺の肩上から聞こえてくる。

無駄にでかい俺の背丈が、人を喜ばせて嬉しかった。


「いいよ、未来。愛花ちゃんが喜んでくれてるなら」

「でも……肩車大変でしょ?」

「全然平気さ」

「パパはいい子いい子」


愛花ちゃんが俺の頭を撫でた。


「パパ……ありがとね」

「ねえ、パパ!ママお手つないで!パパは愛花に観覧車して、ママとお手つないでたから……」

「そうだね!じゃあパパと手をつなぐぞー!」


未来が俺に手を差し出してきた。

俺はその細い手を握る。

未来の体温が伝わってきた。


「パパとママ、らぶらぶだぁ!」


愛花ちゃんはまた俺の肩の上ではしゃいだ。


「このまま、観覧車まで行こうか」

「うん……」


未来が顔を赤くしている。

俺も……たぶん、顔を赤くしてるんだと思う。


俺たちはまるで恋人のように手をつないで、観覧車へ向かった。





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