第23話 絶対負けないんだから(side 未来)

期末テストまで、あと5日だ。

あたしは放課後、凛と一緒に、ファミレスのサイゼリアンで勉強していた。

ドリンクバーと300円のドリアを頼んで、閉店ギリギリまで勉強するのが、テスト前の恒例行事だ。 


「お姉ちゃん。アイス頼んでもいい?」

「ダーメ!また虫歯になるよ」

「えー!アイス食べたい食べたい食べたい!」


愛花を家で一人にするわけにはいかないから、仕方なく一緒に連れてきた。


「未来、アイスくらい頼んであげたら?」

「愛花を甘やかさないで。凛」

「凛お姉ちゃんは優しいなー!凛お姉ちゃんが、あたしのお姉ちゃんならいいのに!」


はあ……最近どんどん口が達者になってきた。

おかげで言うことを聞かせるのに苦労する。


「じゃあ、凛と一緒に帰りなさい。もう愛花は、あたしの妹じゃないから」


あたしは冷たく言い放った。


「え……」


愛花は驚いて固まった。

……ちょっと言いすぎたかな?

でも、たまにはぴしゃりと言って、わからせてあげないと。


「お姉ちゃん……ごめんなさい!愛花はお姉ちゃんの妹がいい!ね、いい子にするから……うっ」


目をうるうるさせて、今にも泣き出しそうだ。

雨の日に捨てられた子猫みたい。

この顔を見ると、あたしは弱くなる。

だって愛花は、あたしの唯一の姉妹だから。


「わかった……アイス頼んであげる。その代わり、いい子に静かにしていて」


ぱあっと、愛香の顔が明るくなる。


「お姉ちゃん、大好き♡」


愛花がぎゅうとあたしに抱きついた。


「あたしも大好きだよ。お姉ちゃんたちは勉強しないといけないから、ボケモンやってて」


……あたしには時間がない。

ケータと数学の点数で勝負する。

絶対に勝って、お願いを聞いてもらうんだ。

あたしはしゃかりきに問題を解き始めた。


「ねえ。小川くんとはどうなの?」


凛が前から話してかけてくる。


「……」

「おーい!聞いてるかー!」

「え?何?」

「あ、ごめん。集中してたから」


必死すぎて無視してしまった。


「……小川くんとはどうなの?」

「えーと……普通だよ」

「普通って……普通はクラスメイトのお弁当作ったりしないでしょ」

「そうだね。うーん……いい感じ、かな?」


ついつい、照れ笑いを浮かべてしまう。


「この幸せ者め!」

「いたいいたい!」


ぎゅーっと、凛があたしの頬をつねった。


「あたしも彼氏ほしいなー!」

「だから、ケータは彼氏じゃないって!」

「どう見ても彼ぴっぴですぅ」

「違う違う」


ケータはあくまでパパで、あしたはママ。

オママゴトに付き合ってくれるクラスメイト……なんだよね?

ケータはあたしのこと、どう思ってるんだろう?


「あ、また小川くんのこと考えてるなー!」

「はにゃあ?」


あたしは変顔をして誤魔化した。


「ふんだ!リア充はいいねえ。でもね、これからあたしもリア充になるから!」

「いい人いるの?」

「太田くんに誘われたの!」


太田くん……ケータの元カノを寝とった人。

イケメンだけど、悪い噂が絶えない。

あたしは少し苦手だ。


「やめときなよ……太田くんって、女の子をいつも取っ替え引っ替えしてるじゃない」

「あんなイケメンに誘われたんだよ?行くっきゃないでしょー!」


凛は昔から面食いだ。

女の子は、本当にイケメンが大好きだ。

ケータはそんなにイケメンじゃないけど……でも優しくて面白くて、とってもカッコいいとあたしは思う。


「凛が好きならいいけど……くれぐれも気をつけてね」

「ふふ。絶対に太田くんを堕としてみせるから!」


凛はあたしの親友で幼馴染だ。

友達として、傷つく姿は見たくない。

心配だなあ……

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