第22話 負けた方は勝った方の言うことを何でもきく

「ママ、大嫌い!」


未来に捕まった愛花ちゃんは、少しお尻を叩かれた。

よほどお尻ペンペンが嫌だったのか、リビングで拗ねていた。

おかげでほとんど勉強できなかった……


「愛花がお約束破るのがいけないんでしょ?」

「ベーだ!」


キッチンで夕飯を作っている未来に、愛花ちゃんがアッカンベーする。


「……またお尻ペンペンするよ?」

「やだあ!パパ、助けて!」


愛花ちゃんは俺に抱きついた。

目をうるうるさせて、俺の同情を引こうとする。


「……パパ、ママが愛花をいじめるのぉ」


猫撫で声で俺に縋りつく。

かわいすぎて、屈してしまいそうになるが、


「愛花ちゃんが、お約束破るからだよ」

「パパのバカぁ!ママとえっちなことしてたくせに!」


ポカポカと俺を足を叩く。


「……ほら、そろそろボケモンが始まるよ」

「え!見る見る!」


愛花ちゃんはテレビ前にすっ飛んで行った。

ふう……俺もやっと愛花ちゃんの扱いを覚えてきた。


「パパー!味見して!」


未来が俺を呼んだ。


「ポトフを作ったの!味見してみて!」


ジャガイモとニンジン、ソーセージが入ったポトフだ。

金色のスープが食欲をそそる。

すげえいい匂いがするし、めっちゃくちゃ美味そうだ。


「どーぞ♡」


未来は小皿を差し出した。

一口飲んでみると、これは、


「すげえうまいよ!」


まろやかなタマネギの味に、胡椒がピリっと効いていて癖になりそうだ。


「嬉しい!」


未来は向日葵のように元気に笑った。


「……」


じーっと俺を見つめてくる。


「ん?どーした?」

「いつもの、して……」

「いつもの?」

「さっきできなかったから……」


あ、そっか。

あれのことか。


俺が理解したとわかった未来は、目を閉じた。

ゆっくりと、俺は未来にキスをした。


「ううんっ…」

「……うっ!」


未来の舌が俺の中に入ってきた。

あったかくて柔らかい……

お互いの熱い海水を渡し合う。

前歯の裏をくすぐられて、気持ちいい。


「あ、パパがえっちな顔してるー!」


いつの間にか、愛花ちゃんが隣にいた。


「うわ!」

「きゃあ!」


俺たちは思わず身体を離した。


「ママばっかりずるい!愛花もキスする!」

「愛花はさっきキスしたでしょ」

「もっとパパとちゅーしたいもん!」

「……もうちょっとできるから、待ってなさい」


◇◇◇


今日の夕飯はポテトサラダにポトフ、あとオムライスだ。

3人でテーブルを囲んで食べる。


「ねえ、今度の期末テストで勝負しない?」


未来が唐突に言い出した。


「しょーぶ?」

「うん。期末テストの点数で勝負して、負けた方は勝った方の言うことを何でもきくの」

「えーママと勝負かー」


成績トップの未来と勝負したら、俺は絶対に負ける。


「ハンデをつけてくれない?」

「えー」


未来はちょっと不満げな顔をしたが、


「なら、パパの得意教科の数学で勝負しよう!それならいいでしょ?あたしは数学苦手だから」

「それならいいかな……」


数学苦手そうには見えなかったけどな。


「パパ、ママに負けるのが怖いんだ?ざぁこ!」


愛花ちゃんが煽ってくる。

「ざぁこ」なんて言葉、どこで覚えてきたんだ?


「大丈夫。パパは負けないよ」

「言ったなー!絶対に勝って、お願いきいてもらうからね!」


いったいどんなお願いするつもりなのか。

なんだかちょっと怖いなあ……

俺は数学を猛勉強することに決めた。






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