第19話 昼休みは見られている

待ちに待った、昼休み。

俺は未来と屋上へ来た。

ふわりと、爽やかな夏の風が頬を撫でた。


屋上へ来る途中、朱未と廊下ですれ違った。

……なんだか最近、やたらと朱未が俺の視界にいるような。

ま、気のせいだよな。


「ケータ、どうしたの?」


心配そうな顔をして、未来は俺の顔を覗き込んだ。


「……何でもない」

「何かあったの?」

「大丈夫。お腹空いてるだけだから」

「そう……」


嘘だ。

今朝、俺は太田と掴み合った。

そこで俺は言ってしまった――俺は未来と付き合っている、と。

太田に言いふらされていると思ったが、奴も学校でヤバイことしていたから、口をつぐんでいるようだ。

未来に知られていなくて、ほっとした。


「ほら、ケータのお弁当だよ!」


ピンク色のかわいい弁当箱を開けると、コロッケのいい匂いがした。


「お、コロッケだ」

「ケータが好きだって言ってから、作ったの」

「すげえうまそう」

「はい!あーんして!」


未来は箸でコロッケをつまんで、俺の口元へ運ぶ。

まだ付き合ってもない女の子にお弁当を作ってもらって、しかも食べさせてもらっている。

これ、人が見たら、彼氏彼女にしか見えないよな……


「うん!うまい!」

「ふふ!嬉しいなあ♡」

「本当にすげえおいしいよ」

「次はほうれん草だよ!野菜も食べなくっちゃね!あーん――」


未来がほうれん草を食べさせようとした時、


「あ!ちょっと……わあ!」

「おわ!」


屋上のドアから声がした。


「あはは。圭太。今日は屋上で食ってたのか……」

「えへへ。未来、お料理上手なんだね……」


悠介ゆうすけと、未来の友達の桜田凛さくらだりんさんが倒れていた。


「凛……いったいそこで何してるの?」

「いやあ、未来と小川くんが心配になって……」

「まさか、そこでずっと見てたの?」

「ごめん……どーしても気になちゃって」

「はあ……もう」


未来はやれやれと呆れた顔をした。


「悠介、お前もか」

「……いいじゃねえか。ちょっとくらい親友に、幸せな気持ちを分けてくれてもさ」

「おいおい……」


ふうーと、俺はため息をついた。

さっきの「あーん」を悠介に見れていたと思うと、俺は恥ずかしくて顔が熱くなってくる。


「ごめんね!お邪魔しちゃって!あたしたちはも行くから!」


桜田さんが悠介の背中を押す。


「もっと甘々青春ラブコメを見たいのに!」

「ダメダメ!もう帰るよ!」

「圭太!あとでいろいろ教えてくれよー」

「ほら、行くよ!」


悠介はドアの向こうへ押し込まれた。


「じゃあね!未来!」


2人はいなくなった。

……俺と未来はお互いに顔を真っ赤にして、しばらく黙っていた。

お互いの親友に、恋人みたいなことしているところを見られたから。


「早く、食べちゃおっか……」


未来が小さくつぶやいた。


「うん。そうだね……」


俺は卵焼きを口に放り込んだ。


「そうだ!もうすぐ期末テストじゃん。だからうちで一緒に勉強しない?ケータがいれば愛花も喜ぶし」









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