第18話 昼休みが楽しみ(side 未来)

「春はあけぼの……」


退屈な古典の授業を聞きながら、あたしは前の席に座っているケータを見ていた。


あたしの席は教室の1番後ろで、ケータの席は教室の前から3列目にある。

ケータは爆睡している。バスケ部の朝練で疲れてるのかな?

……昨日、あたしと愛花がなかなかケータを寝かせなかったから、寝不足なのかも?

ごめんね。ケータ。


でも、ケータと一緒にいるのが楽しくて、寝たら明日が来ちゃうのがイヤだった。

あのまま、ずっと一緒にいたかったな……

あと少しで夏休みだから、ケータと海に行ったり、お祭りに行ったり、楽しいこといっぱいして……


「未来、未来……」


隣の席の凛が、膝であたしをつつく。


「……ふぁ?」

「ほら、先生が……」

「綾瀬さん。次はあなたですよ」

「あ……ごめんなさい!」


あたしは急いで立ち上がった。


「いつも真面目な綾瀬さんが、今日はどうしたのかしらね……」

「すみません」

「何を考えてたの?」

「えーと……今日の雲はドーナツみたいで美味しそうただなあって」


教室に笑いが巻き起こった。


「こら!静かにしなさい!」


先生が怒鳴った。


「もういいわ。綾瀬さん、席に座りなさい」

「はい……」


あたしは席に座った。

恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。


「……未来、小川くんのこと考えてたんでしょ?」


凛がニヤニヤしながら聞いてくる。


「え……違う違う」

「ずーと、小川くんのことばっか見てたよ。ヨダレ垂らしながらね」

「よ、ヨダレぇ!」


あたしは叫んでしまった。


「……綾瀬さん。どうかしたの?」


先生が呆れた顔をした。


「いえ、何でもありません……」

「授業中は静かにね」

「はい……すみません」


もう死にたいくらい恥ずかしい。

唯一の救いは、ケータがまだ爆睡してることだ。


「ごめんごめん。ヨダレは嘘だから」

「ひどいよ。凛」

「幸せそうだから、からかいたくなって」

「もおー」


ぽかっと、凛の頭を軽くこづいた。


「そーいえば、B組の太田くん、新しい彼女できたらしいよ」


太田くんの噂は、あたしも聞いている。 

ケータの元カノの飛騨さんを、寝取ったらしい。

しかも、その飛騨さんを捨てたとか。


「今度は読モやってる3年生だって」

「へー。そーなんだー」

「興味ないの?」

「うん。太田くんに興味ないから」


情報通の凛のおかげで、人の噂を耳に挟むようになった。

誰と誰が付き合って、誰と誰が別れたとか。


「えー。太田くん貴重なイケメンなのに」

「そうかな?あたしはそう思わないけど」

「うっそー」


みんな太田くんをイケメンって言うし、凛もカッコいいと思ってる。

けど、あたしは冷たい感じがして苦手だ。

ケータのほうが優しいし面白いし……カッコいいと思う。


今日のお弁当は気合いを入れて、コロッケを作った。

ケータにいっぱい食べてほしい。

昼休みが楽しみだなあ。


「未来、またヨダレ出てるよ」

「ふぁあ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る