第17話 体育館の裏で

俺はバスケ部の朝練を終えて、水を飲みに体育館の裏に来た。


「はあはあ……」

「う、ううんっ……」   


イケメン太田と女の子が、学校で絶対にしてはいけないことをしていた。


「おわ!また小川かよ!」

「きゃあ!」


女の子は太田の背中に隠れた。

相手の女の子は、たしか3年の先輩だ。

今年の3年生の中で、一番かわいい子だ。


「小川、邪魔すんなよ」

「別に邪魔してねえし……」


俺は2人を無視して、水道の蛇口をひねった。


「太田くん、あたし帰るね」

「ちょっと待って——」

「またね!」


女の子は走り去って行った。


「おい!お前のせいだぞ!」


太田は水を飲んでる俺の肩を掴んだ。

俺は顔を上げて、太田と向き合った。


「知らねえよ。こんなところでしてるのが悪いんだろ」

「ははん……なるほど、な」


太田は薄笑いを浮かべた。

こいつはいつも、世の中を斜めに見ていて、人をバカにしてる。

女子たちは、こんな奴のどこがいいんだろう?

やっぱり顔か?顔なのか?

顔がすべてなのか?


「彼女を寝取られた腹いせに、俺のお愉しみを邪魔したってわけか。お前の幼馴染、あそこがゆるゆるだったぜ。この高校には兄弟がたくさんいるんだろうなあー」 


安っぽい挑発だ。

こんなものに乗ってはいけない。


「勝手に言ってろ」

「じゃあもっと言わせてもらうぜ。お前、綾瀬さんと付き合ってんの?」

「……」


俺は黙った。

未来とのことを、こんなクソ野郎に話したくない。

未来と愛花ちゃんと過ごす時間は、俺にとって大切なものなんだ。


「あ、悪い悪い。デカいだけが取り柄の陰キャ野郎が、綾瀬さんと付き合えるわけないよな?」


俺はたまたま背が高いからバスケをやっている。

バスケをやっていたらモテると思っていたけど、さっぱりダメだ。

それにレギュラーでもないから、太田の言う通り「デカいだけの陰キャ」だ。


「……綾瀬さん、かわいいよな。胸もデカいし。あんな子とできたら最高だなあ。おい、知ってるか?ああいう真面目ぶった女はエロいんだよ」


太田は俺の耳元で囁いた。 


「お前!」


俺は太田の胸ぐらを掴んだ。


「おいおい、やんのかよ?言っておくが、俺は空手2段だ。お前より戦闘力は上だぜ」

「関係ねえ。未来をそんなふうに言う奴は許せない」

「お前ら、付き合ってないんだろ?だったら俺が綾瀬さんを誘って、何が悪いんだよ?」

「俺は……未来と付き合ってる」


勢いで言ってしまった。


「嘘つくなよ。陰キャ野郎」

「嘘じゃない!未来は俺の彼女だ!もし手を出してみろ。お前をぶっ飛ばす!」


俺が拳を振り上げたその時、


「おーい!圭太!そろそろ教室行こうぜー!」


バスケ部の連中の声が聞こえた。

 

「小川。命拾いしたな」


太田はニヤリと笑った。


「それはこっちのセリフだ」


俺は太田を怒りを込めて睨みつけた後、部員たちの元へ走って行った。





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