第15話 子どもが寝た後で

「すーすー」


愛花ちゃんがやっと眠った。

なかなか寝てくれなくて大変だった。

寝顔、すげえかわいいな……


「ケータ……まだ起きてる?」


未来がささやく声が聞こえた。


「まだ、起きてるよ」

「……今日はごめんね。またキスしちゃって。あと……お風呂でも」

「いや、別に……全然大丈夫だよ」

「でも、ケータが悪いんだよ」

「え、どうして?」

「……今日、キスしてくれるって言ってたじゃん。でも、あたしがキッチンに立ってる時、来てくれなかったでしょ」


未来は手を伸ばして、俺のパジャマを引っ張った。

暗くてよく見えないけど、怒っているようだ。


今日の昼休みに、俺は「今日もキスする」とたしかに言っていた。

愛花ちゃんと遊ぶのに夢中で、夕食の時に未来にキスするのを忘れていた。


「そうだった……ごめん」

「本当に悪いと思ってるなら、埋め合わせして」

「埋め合わせ……?」

「たとえば、あたしをデートに誘うとか、ぎゅーと抱きしめてキスするとか、夏休みに2人きりで旅行するとか、そういうことが埋め合わせ」


デート、キス、旅行……

まるで本当の恋人みたいじゃないか。


「どれからやってくれる?」


未来は頬をぷくっと膨らませて、俺の腕をつねった。

けっこう痛いぜ……


「……デートからしよう」

「デートが最初?旅行からでもいいよ?」

「いや、それは……」

「ふふ。冗談」


イタズラぽっく笑った未来を見て、俺は頬が熱くなった。

えっちなこと考えていたって、バレバレだ。


「ケータ、やらしー」

「違うって!未来が旅行とかいうから……」

「……いつかは絶対に行こうね。ケータと遠くへ行きたい」

「うん……」


未来は俺の手を握った。

すべすべのきれいな手。

未来の体温が、直に伝わってきた。


「今日は……ずっと手を握っていて」


未来がそう言うと、


「パパぁ……どうして……」


今度は愛花ちゃんが、俺にしがみついてきた。


「どうして……死んじゃったの?」


寝言を言っているみたいだ。

眠りながら小さな身体を震わせる。


「愛花はよく寝言を言うの。死んだパパのことを恋しがってね……」

「そうなんだ……」


俺は愛花ちゃんの髪を撫でた。

父親は死んで、母親は仕事で家にいない。

まだ5歳の愛花ちゃんは、すごく寂しいんだ。

……俺も同じくらいの頃、死んだ母親のことを思い出して夜に泣いていた。

だから愛花ちゃんの気持ちは、痛いほどわかる。


「じゃあさ……遊園地デートはどうかな?」

「遊園地!愛花がすっごく喜ぶと思う」

「期末テストが終わったら行こう」

「ありがとう!ケータ!」


デートには愛花ちゃんも一緒だ。

だから、これはパパとママのデート……なんだよな?

彼氏彼女じゃなく……


「ケータとデート、楽しみ……」


ぎゅと、さらに強く、俺と未来は手を握った。








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