第2話 学校一の美少女から呼び出し

朝、俺は憂鬱な気分で登校した。 

クラスでは、俺が彼女を寝取られたという噂が流れていた。

クラスメイトの視線を感じる。


「圭太、大丈夫か?」


俺の中学からの親友、悠介(ゆうすけ)が声をかけてきた。


「おはよう。大丈夫だよ。全然気にしてないから」

「そうか。でも俺は、いつでも話聞くよ」

「ありがとな」


昔から俺をいろいろ気遣ってくれるいい奴だ。

俺と違って、男子にも女子にも好かれる。

悠介に話しかけてもらえて、気持ちが楽になった。


俺は机に突っ伏して、授業が始まるのを待っていた。

クラスメイトが噂する声が聞こえる。


≪あいつ、彼女を寝取られたんだって≫

≪あの太田にやられたらしいぜ≫

≪小川とは釣り合ってなかったからな≫


クソ!

みんな勝手なことばかり言いやがって……

寝取られた奴の気持ちは、リアルに寝取られた奴にしかわからない。


「小川くん!」


きれいな明るい声が聞こえた。


「あ、綾瀬さん!」


顔を上げると、俺の目の前に学校一の美少女がいた。

クラスメイトの視線が、俺たちに集まる。


「今日の放課後、体育館の裏に来てくれない?大事な話をあるの」

「お、俺に?」


昨日まで話をしたこともなかった綾瀬さんが、俺に大事な話があると言う。

にわかに信じることができなかった。


「そうよ。小川くんに話があるの。本当に大事な話だから、絶対に来てね!」


綾瀬さんは俺に笑いかけた。

めっちゃくちゃ、かわいい笑顔だ……

俺の暗かった心が、ぱっと明るくなる。

さらさらの黒い髪が揺らしながら、俺の前から去って行った。


このあり得ない光景を見た悠介が、また俺のところへ来た。


「おい。何があったんだよ?」

「俺にもわからん」

「もしかして……告白とか?」


悠介がニヤニヤしながら、肘で俺を突いた。


「そんなわけないだろ……」


まさか今流行りの嘘告ってやつか?

でも、忙しい綾瀬さんが俺にそんなことする理由がわからないな……


またクラスメイトの話し声が聞こえる。


≪綾瀬さんがなんでなんか小川に……≫

≪まさか、告白とか?≫

≪綾瀬さんと小川が付き合ったら俺死ぬわ≫


本当に勝手なことばかり言いやがって……


でも、いったい話って何だろう?

俺はぐるぐると答えの出ないことを考えながら、放課後になるのを待っていた。


◇◇◇


放課後、俺は体育館の裏へ行った。

昨日、朱未と太田が愉しんでいた場所。

思い出すと、胸がぎゅっと苦しくなる。


先に綾瀬さんが待っていた。


「来てくれたんだね。ありがとう」

「話って何?」

「あのね。すっごい変な頼みがあるんだけど……引かないで聞いてくれる?」


綾瀬さんは顔を伏せて、身体をもじもじと揺らした。

この戸惑いぶりを見ると、どうやら嘘告ではないようだ。


「……妹のパパになってもらえませんか?」




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