第3話 妹のパパになってください

「パパ?」


予想の斜め上すぎて、俺は目を丸くした。


「小川くんに、妹の愛花のパパになってほしいの」

「えーと……よくわかんないんだけど、愛花ちゃんにも綾瀬さんにも、本当のパパがいるんじゃないの?」

「本当のパパは、3年前に死んだ……」


綾瀬さんは悲しげな顔をした。


「あ、ごめん……」

「いいの。小川くんは、死んだパパにすごく顔が似てるの。背の高いのところもそっくりで。それで、愛花はパパが生き返ったと思って」

「いくら似てるっていても、俺は本当のパパじゃないし……」

「あたしもね、パパは死んだからもう戻ってこないんだよって愛花に言ったの。でも、小川くんを見てどうしてもパパが恋しくなっちゃって……今日、私の家に来てくれないかな?お願いします!」


綾瀬さんが頭を下げた。

何度も何度も、必死に。

学年一の美少女、我が高校の姫様が、俺みたいな陰キャに頭を下げる……あり得ないことだ。 

こんなに必死に綾瀬さんに頼まれたら、断ることはできなかった。


「……要するに、パパのフリをすればいいってことだよね?」

「そう。オママゴトする感じでいいから……」

「わかった。それならやるよ」

「本当!ありがとう!」


綾瀬さんが俺の手を握った。

めっちゃくちゃ柔らかい手だ。

細くて白い、きれいな指。


もうすでに、俺は落とされそうだ……


「さっそくウチに来て!今日はおいしいものたくさん作るから!」


◇◇◇


学校から歩いて、綾瀬さんの家へ向かった。

途中、何人かの生徒に綾瀬さんと歩くのを見られた。

すげえビックリしてたな……

明日、学校で噂になっているかも。


綾瀬さんの家は、すごく大きかった。

芸能人が住むような豪邸だ。

これが学校一の美少女の家か……


「おじゃましまーす!」


とても広いリビングだ。

高級そうなでかいソファーに、暖炉まである。

天井は吹き抜けになっていた。


「パパ!」

「おわ!」


愛花ちゃんが走って、俺に飛び込んできた。


「こら!愛花!パパがビックリするでしょ!」


綾瀬さんが愛花ちゃんを叱った。

すでに「オママゴト」は始まってるらしい。


「ごめんなさい!ママ!」


ママ⁉︎

綾瀬さんがママ役?

ということは、俺と綾瀬さんは……


「あなた、お風呂にする?ご飯にする?それともあたしに——」

「ダメ!パパはあたしと遊ぶの!」


愛花ちゃんは俺の手を引いて、2階へ連れて行こうとする。

ツインテールに、サクランボのリボンをつけている。

クリクリした丸い目がかわいい。


「いいなー!ママも一緒に遊びたいなー!」


綾瀬さんがノリノリで着いてくる。


「ママはダメ!パパはあたしだけのものなの!」

「えーいいじゃん。ママもパパと遊びたいもん!」


ニコニコしながら、愛花ちゃんにお願いする。


「しょーがないママだなー。ちょっとだけだよ!」

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