第28話 待たせてごめんね
俺は小鳥遊さんの後を追って教室を飛び出した。
白井にやられた足は痛み、上手く走る事が出来ない。
「バカやろう! バカやろう! 俺のバカやろう!!」
それでも俺は自分を奮い立たせて走る。
今ここで彼女を追いかけなかったらきっと俺は後悔する。そんな確信を持って。
しかし、俺と小鳥遊さんの距離は開くばかりか、とうとう彼女の姿を見失ってしまう。
運動神経抜群の小鳥遊さんと足を痛めている俺。俺が追い付けないのは必然だった。
「クソッ......!」
俺は焦る気持ちを抑え、彼女の行先を考える。
彼女は俺を待っていると言っていた。
一体それはどこで?
考えろ。
ずっと待っていたという事は今日だけでなく、昨日もその前の日も待っていたということだろ。
小鳥遊さんが放課後に行く場所──
そこで俺はある場所を思い出す。
それは昨日小鳥遊さんを見つけたあの空き地だ。
小鳥遊さんとは時間を空けて学校を出たはずなのに、彼女はあの場所にいた。
もしかしたらそこに小鳥遊さんがいるかもしれない。
行先を定め俺は再び走り出した。
そして、走りながら考える。
仮にあの場所に小鳥遊さんがいたとしても、何故あの場所なのだろうか?
そこで、俺の中で何かが引っ掛かる。
このまま彼女を見つけたとして、それが本当に正解なのか?
約束を──彼女との過去を思い出さなければいけないじゃないか?
俺はそんな使命感に駆られる。
そもそも、俺は何であそこを通らなくなったんだろう?
わざとあの場所を避けてたような......
小さい頃に何か辛い思い出があってあの場所を避けて──
「......っう!」
その時、ふとした頭痛が俺を襲う。
後頭部がじりじりと焼けるように痛い。
白井とやりあった時の後遺症か? そう思ったが......
「頭......」
また何かが俺の中で引っ掛かる。
過去に俺は頭に大きな怪我をしたような──そんな記憶が脳裏を過った。
その原因は誰かを守ろうとして......
「誰を......?」
ふと、思い出したのは初等部に上がる前の記憶。そこで俺は一人の少年と友達だった。だったというのは彼が突然姿を消してしまったからだ。
彼だけでなく、大好きだった公園もどんどんと取り壊されて......
「公園......?」
そういえばあの公園はどうなった? きっと空き地になってしまったはずだ。
じゃあ、あの公園は元々どこにあった? 俺の家の近く──それこそ昨日小鳥遊さんが待っていたあの辺りのはずだ。
「まさか......」
俺は何か大きな間違いをしていたのかもしれない。
俺は小鳥遊さんのような少女と過去に接点はないと思っていた。そもそも、女の子との接点などほとんどなく、本当に検討がつかなかった。
そして、それ以外は初めから考えようとしなかった。例えば男の子──そう、彼の事も。
本当の事を言えば思い出したくなかった。きっと思い出すのが怖かったんだ。
当時の俺にとって彼はたった一人の友達で、それだけに会えなくなった事が悲しかったから。
無意識の内に彼の存在を忘れようとしていた。
それでも思い出してみればあの時は本当に楽しかったんだ。年を重ねる毎に増えるしがらみや、人間関係のいざこざなど考えずに、純粋にその時間を楽しんでいた。
遊具で遊んで、砂場で泥だらけになって、袖に穴が空くほど滑り台で遊んで、疲れたらベンチで休んで。
そんな当たり前の日常の隣にはいつも君がいた。
ものすごくわんぱくで、いつも俺の腕を引っ張って走って、屈託のない笑顔をいつも俺に向けていて──そんな掛け替えのない友達。
『......うん、約束。れいくんが良くなるまで待ってるから! ずっと待ってるから!』
あぁ、俺はやっぱりバカやろうだ。
「約束──したよな」
足を止めた先には目的地である空き地が見える。
そして、肩で息をしながら俺は一人の少女──いや、友達を見つけた。
その長い黒髪はクラスで一番美人な彼女のもので、思い出のこの場所で待つその後ろ姿はあの頃の彼のものだった。
俺は近づき、ありったけの思いを込めて友達の名前を呼ぶ。
「小鳥遊さんっ─────!!!!!」
俺の声に気づいて小鳥遊さんが振り返る。
そんな彼女は今にも泣き出しそうな顔だった。
「れい君............っ!」
あぁ、やっと見つけた。
「──待たせてごめんね、あおくん」
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