第23話 そんなお前を
あれから何時間経っただろうか。
俺は誰もいない教室で一人、デバイスとにらめっこする時間を過ごしていた。
あの後、連行された俺と白井は学校の規則によりペナルティを受ける事となった。
暴力沙汰をおこした俺と白井は両者共に停学。
まぁ、妥当な処分だと思った。
だけど......
「玲二は苛めを受けていたんです。それに先に手を出したのは白井の方でそれは皆に確認してもらえれば分かります」
「れい.....片岡君は私の誹謗中傷コメントに怒って行動を起こしてくれました。その証拠は......オープンチャットの画像があります」
そこに待ったをかけるように動いてくれた人物が二人いた。
その一人である楽人は白井が苛めを行っていた証拠と白井が先に手を出したと言う事を主張してくれた。
俺は気づかなかったが、楽人は裏で白井の行動を牽制しつつ、苛めの証拠を集めてくれていたらしい。
証拠というのは俺に関するものだけでなく、今まで苛めを受けた生徒達の被害もまとめたものだった。
学校側は白井家との繋がりもあるため騒動の前はこれをまともに受け取ろうとはしなかった。
しかし、白井が今回起こした件をきっかけにそれは変わったようだ。
また、白井との喧嘩に夢中で気づいていなかったが、白井に加勢しようとする白井グループの生徒達を楽人が一人で押さえていてくれたらしい。
俺はこの話を聞いて楽人に対する感謝と自分に対する情けなさでいっぱいになった。
そしてもう一人の生徒──小鳥遊さんは自分の誹謗中傷コメント、盗撮写真の提示と俺の行動は飽くまで自分のためだったと主張してくれた。
その中には誹謗中傷コメントだけでなく、自分の見られたくない写真──盗撮写真だってあったのだ。
本当であればそんなもの教員にも見せたくないだろうにすぐに本人から学校側に訴えてくれたのだ。
それだけでなく、俺の行動は自分が原因で起きたものであり、もし俺がペナルティを受けるのならば「私もペナルティを受けます」と言って聞かなかった。
普段は真面目で大人しい優等生な小鳥遊さんの言動だけあって、学校側も非常に悩んだようだ。
その結果、俺が今まで大きな問題を起こしてこなかった点、最初に手を出したのは白井だという点、更には小鳥遊さんのために起こした行動だったという点から、情状酌量の余地があるとし、ペナルティが少し軽くなった。
その内容は反省文の提出と一週間ほどの自宅謹慎。
そんな俺は今日中に反省文を提出しなければ帰らせないと言われており、デバイスとにらめっこするしかなかった。
それに比べ、白井は暴力行為や生徒に対する嫌がらせや苛め、それに加え小鳥遊さんに対する盗撮なども加味してペナルティはどんどんと膨れ上がった。
その内容は今の段階で停学と原級留置処置までが確定している。
いくらペナルティの累積を金とコネで消せるとはいえ、一発でこれなのだ。さすがにこれをお金の力で取り消すことは難しい。
それに学校側でも白井の行動については今も調査中との事で、もしかしたら一発で強制退学処分もあり得るかもしれない。
まぁ、なんとなくそれも時間の問題なような気がするな。
「もう二度と顔も見たくないしな......」
俺はふと窓の外を見る。校内は実に静かだ。
授業中なので当たり前と言えば当たり前なのだが、何だが不思議な感覚がする。
一向に進むことのない反省文に溜め息をついたその時だった。
「玲二、怪我は大丈夫か?」
俺しかいないはずの教室で聞こえたのは本来は授業中であろう友人の声。
「楽人......授業は?」
「サボった!」
「えっ!」
俺は楽人の発言に反射的に声を上げてしまう。
「たまにはサボるのも悪くないな」
「その、大丈夫なのか?」
俺が知る限り楽人が授業をサボった事など一度もない。
「普段真面目にやってるからな。このくらいは目を瞑ってもらわないと」
楽人は爽やかに笑ってみせる。
楽人はそう言うが、無理をして俺の所に来てくれた事は明白だった。
「ごめんな楽人」
「玲二?」
だから余計に申し訳なくて、自分が情けなくて俺は言葉を溢す。
「俺って最低だよな。楽人に迷惑かけて、結局暴力まで振るって──」
学校に提示された反省文は何時間経とうが空白のままなのに、楽人に対する言葉は止めどなく溢れてくる。
「............」
楽人はそんな俺を黙って見つめている。
あぁ、失望したよな。
心底愛想つかされて当然だよな。
だって楽人は止めてくれたんだ。こうなるって分かっていたから。
俺だって分かってはいた。
それなのに俺は自分の行動を──白井を殴った事を全く後悔していないんだ。
「玲二......」
だからどんな罵声も叱責も浴びせられる覚悟だった。
それをする資格が楽人にはあるから。
でも──
「ありがとな」
「......楽人?」
俺が聞いた言葉は全く別のものだった。
「確かに暴力は良くない事だ。でも、お前は小鳥遊さんのために動いたんだろ?」
「......あぁ」
「俺は玲二の自分の事を省みず他人の為に行動できる所を誰よりも尊敬している」
「......」
「それに玲二が本当に間違った事をしていると思ったら俺はすぐにでも止めてる」
楽人はこちらに近づき、
「だから胸張れよ、玲二」
俺の背中を優しく叩く。
「それで困ったときは気を遣わず頼ってくれよ」
「楽人......」
その優しさに今まで固まっていた俺の身体が──感情がゆっくりとほぐれていく。
「俺は迷惑だなんて一切思ってない」
楽人はそう言いながら俺と目を合わせ、
「だって俺たち──友達だろ?」
親しみのある笑みを見せる。
それはいつも通りの楽人で、いつも通りだから温かくて。
ずるい。
ずるいよ楽人。
今それを言うのは。
「俺は......」
ふと俺の涙腺が緩む。
あぁ、ダメだな。
「あ~、そろそろ俺も教室に戻らないとな」
そんな俺に楽人はスッと背中を見せる。
まるで俺の泣いてる姿を見ないように。
そして──
「──待ってるからな玲二」
その言葉を残して楽人はこの教室から去っていった。
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