第15話 ご一緒にいかが?



 俺は考えていた。

 それは昨日の寝たふりで分かった俺と小鳥遊さんが過去に何処かで会っていたかもしれない件についてだ。


 初等部、中等部、高等部の現在に至るまでの記憶を探ってみたが、やっぱり小鳥遊さんのような少女と出会った記憶はない。


 そもそも俺自身、あまり人と関わってこなかったし、接点があるなら覚えているはずだ。

 それに、女子との関わりは特に少なく、ほとんどと言っていいほど記憶にない。


 そんな少ない記憶の中でふと一人の少女の姿が思い浮かんだ。

 それは俺が初等部の頃に出会った唯一接点があった女子の事だ。

 俺と出会ってから彼女はすぐに転校してしまったので、友達と言って良いのかは分からない。

 だけど、短い間でも確かに俺達は充実した時間を過ごせていたはずだ。


「あの子はちゃんと友達作れたかな」


 彼女の学校での境遇を考えれば転校は仕方がなかったのだと今は思う。

 そんな彼女だが、小鳥遊さんと顔も似てなかったと思うし、名前だって全然違う。

 だから、きっと彼女が小鳥遊さんということはないのだろう。


「う~ん......」


 小鳥遊さんほどの美人だったら忘れるはずないと思うんだけどなぁ......


 それとなく小鳥遊さんに過去の事を聞いてみるか?

 でも、あんまり脈絡がないと怪しまれてしまいそうだ。


 そんな事を考えているといつの間にか昼食の時間になっていた。

 珍しく頭を使った事で今日はお腹が空いている。


 俺はいつも通り楽人と机を囲み、昼食を取ろうとしていたのだが、楽人に昼食の準備をする素振りが見られない。


「楽人、お昼は食べないの?」


 俺はそれとなく楽人に聞いてみる。


「ん~、今日は一人で食べるかな」


「え! 何で......?」


 予想外の返事に俺は驚きを隠せなかった。


 その刹那、俺が何かしてしまったのではないか? もしかして楽人に嫌われてる? などのネガティブな感情が沸き上がる。


 そんな俺の表情に気がついた楽人はフッと笑みをこぼし、教室の前に視線を送る。


「いや、ほら」


 俺も楽人の視線に合わせて前を向くと、その視線の先に小鳥遊さんの姿を確認できた。


「小鳥遊さん?」


「そう。小鳥遊さん、いっつも一人で食べてるだろ?」


「そうだな」


「だから玲二、小鳥遊さんと一緒に食べてきなよ」


「なっ!?」


 楽人の言葉に俺は本日二度目となる驚きの声を上げた。


「最近仲良いだろ?」


 俺と小鳥遊さんの二人で机を囲んで昼食を取る......?


「いや、ムリムリムリムリ!」


 俺は全力で首を左右に振る。

 心と身体がそれはまだ早いと告げている。


「嫌なのか?」


「嫌じゃないけど、ハードル高すぎるだろ!」


「そうか?」


 キョトンとした顔で首を傾げる楽人。


 確かに小鳥遊さんと最近話すようにはなったが、二人だけで昼食はレベルが高すぎる。

 それに教室には他にも昼食を取っている生徒が何人かはいるわけで。

 そんな中で、あの小鳥遊さんと二人で昼食はさすがに俺の心臓がもたない。


「そうだよ! それに俺と一緒に食べるなんて断られるかもしれないだろ?」


「いや、それは大丈夫だと思うぞ?」


 まるで心配はないと言う楽人。


「こ、根拠は......?」


「俺の勘」


 あっけらかんと答える楽人。


 しかし、楽人の勘をバカには出来ない。

 それは楽人の勘がびっくりするほどよく当たるからだ。


 楽人と時間を重ねる内に分かったのだが、彼の言う『勘』とは何らかの根拠に基づいた予測の事だ。それも周りをよく見ている楽人の観察眼から得られた予測なのだ。

 だから、ただの当てずっぽうではなく、俺が小鳥遊さんに断られないという何らかの理由があっての発言だとは分かっている。

 それが何なのか俺には分からないが。

 

「楽人は一人でいいのか?」


 俺と小鳥遊さんの二人で昼食を取るなら楽人は一人になってしまう。


「俺はいいんだ。いっつも玲二を独り占めしてるからな」


 悪戯そうな笑みを浮かべる楽人。

 その顔でそう言われてしまうと俺は何も言い返せない。


「玲二が嫌なら別に無理する必要はないからな。もしダメだったらその時は俺と一緒に食べればいいし、玲二に任せるよ」


 飽くまで俺次第。楽人はそう言った。


 俺は考える。

 これは小鳥遊さんとより仲良くなれるチャンスなんじゃないか?

 仲良くなっていけば過去の事も何か分かるかもしれないし、それとなく過去の事を探れるかもしれない。


 それに失敗しても......楽人が慰めてくれる! はず。


「俺......ちょっと行ってくるよ」


 俺は決意を固め、そう呟く。

 そして、自分の昼食を手に持ち、席を立った。


「幸運を祈る」


 楽人はそんな俺に親指を立てて送り出す。


 楽人が自信を持って送り出してくれたんだ。

 きっと勝算はあるはず。


 俺は小鳥遊さんの席を目指し、強い一歩を踏み出した。


 途中、楽人の呟くような「骨は拾ってやる」という声が聞こえたような気がしたが、それはきっと気のせいだよな?

 








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