第13話 友達だから
放課後。
自由が解放された教室では、クラスの各々が部活動の準備や雑談などに華を咲かせている。
そんな眩しい光景に目を逸らしつつ、俺はいつものように机にぐでーっと腕を伸ばして、教室が静かになるのを待っていた。
すると、いつもは早めに帰るはずの楽人が、何故か今日は自分の椅子をこちらの机と向かい合うように反転させ、そこに腰を下ろした。
「なぁ、玲二」
「ん?」
「最近ちゃんと寝れてるか?」
そう言って俺を心配する楽人。
本当はここで『大丈夫』と言えば楽人も安心すると思うのだが、そんな事で気を使う間柄でもないので、
「いや、寝れてないな」
俺は素直に答える。
「また遅くまで作曲頑張ってたのか?」
楽人は俺の音楽活動を知っている唯一の人物だ。
出会った頃は恥ずかしくて言えなかったが、楽人なら伝えてもいいと思えた。
思った通り、楽人は俺の事をバカにすることもなく、俺の活動を肯定的に捉え、応援してくれている。
「あぁ、作曲もそうだけど、昨日はずっとリアの曲を聴いてたな」
「お? まじか。結構良い曲多いだろ?」
「正直めっちゃハマった」
楽人とはよく趣味の話をする。
その中でもリアの名前を聞く機会はあった。
それでも有名な曲を聴いてみるだけで、俺はきっと表面上の魅力しか理解していなかったのだろう。
今では楽人がリアを好きになる理由も分かるというものだ。
楽人ともリアの曲について語り合いたいな。
「だろ? じゃあ、玲二のロックを聴ける日も近そうだな」
楽人は楽しげにそう言いながら笑みを見せる。
「まぁ、そのうちな~」
「期待してるぜ」
その親しみを感じる爽やかな笑顔はやっぱり楽人のチャームポイントだと思った。
「そういえば、今日は早く帰らなくて大丈夫なの?」
俺はいつもとは違う楽人の行動を不思議に思い、そう聞いてみる。
「あ~、今日はあんまり玲二と話してなかったからさ、ちょっと話したかったんだよ。だけど、まぁ、そろそろ帰るかな」
楽人は照れくさそうに首に手を当てながら、そう言ってみせる。
「そっか」
思えば今日はほとんど寝ていたし、寝てない時は小鳥遊さんと話していたから、楽人との会話は少なかった。
ちゃんと話したのは一緒に昼食を取っていた時くらいだな。
そう考えれば、楽人の行動も理解できた。
そんな楽人は、自分の椅子を元の位置に戻し、カバンを肩にかける。
その後、俺に向かって手を上げ、別れの挨拶をする。
「またな、玲二」
「じゃあな、楽人」
俺も楽人に手を振り返す。
楽人はそのまま教室を出ていくと思いきや、俺の真横でふと止まり──
「玲二。頑張りすぎるなよ」
俺を気遣う言葉を掛けた。
「いやいや、頑張ってる奴は授業中寝ないって」
自慢じゃないが、俺なんかよりも頑張っている奴は山ほどいる。
「そういう事じゃないんだけどな......悩みはあんまり溜め込まない方がいいぜ?」
俺はその言葉に一瞬、言葉をつまらせる。
それは自分に思い当たる節があったからだ。
だけど、それは胸にしまっておく。
「......ないない! 俺は悩みが少ないのが取り柄だぞ?」
「そうだったな。まぁ、困ったことがあったら何でも言ってくれよ。俺たち友達なんだからさ」
あぁ、いつも助けてもらっているよ。
返しきれないほど沢山。
「おう。サンキューな」
楽人は一瞬ニコっと笑みを見せて、今度こそ教室を去っていった。
「............」
俺は見えなくなるまで、そんな楽人の背中に向かって手を振り続けた。
だって、振り返った時に手を振っていなかったら俺の胸の内がバレてしまいそうで、今は何となく弱いところを見せたくなかったから。
いや、きっとそんな事をしなくても、もう楽人にはお見通しだったんだろうな。
だから、俺に声をかけて──
「友達だから、か」
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