第11話 朝の憂鬱
月曜日の朝。
俺は重い瞼を何とか開け、学校に向けて歩を進めていた。
目の前を歩く溌剌とした顔の生徒達に比べ、俺はきっと酷い顔をしているのだろう。
「昨日は寝れなかった......」
というのも、昨日は夜遅くまで小鳥遊さんから勧められたアルバムの曲を何回も聴いていた。
それだけなら、まぁ、ちょっとは寝れたのだろうが、そのままの勢いでそれ以外の曲も聴いてしまったからだ。
それに、曲を聴いているうちに俺もリアの魅力に惹かれ、気がついた時にはどっぷりとハマってしまったのだ。
睡眠時間こそ犠牲にはしてしまったが、これで小鳥遊さんとリアの曲で語りあえるだろうし、そう考えると不思議と活力が湧いてくる。
だから、決して気分は悪くない。いや、月曜日ということを考慮すればかなり良い方だった。
「ちょっと楽しみだな」
そんな気分のまま登校した俺はシューズロッカーから上履きを取り出し、地面に置いた。
いつも通りの所作で上履きに足を通そうとしたその時、横からやってきた何者かに上履きを蹴り飛ばされる。
「は?」
不規則な軌道を描き放り出された上履き。
片方はシューズロッカーに当たって止まり、もう片方は奥の方へと飛んでいってしまった。
突然の出来事に驚きつつも、蹴り飛ばしたであろう人物に顔を向ける。
そこには憎たらしい笑みを浮かべる白井の顔があった。
「あ~、足が滑ったわ」
白井はそんな
はぁ......面倒くさい。
今のは誰が見ても絶対にわざとやった事だろう。
せっかく朝から気分が良かったのに、これでは台無しだ。
心の中でため息をつきながら、俺は白井を無視して上靴を取りに行き、そのまま教室への移動を開始する。
「おい、無視するなよ」
背中で白井のそんな声が聞こえたが関係ない。
こういうのはこちらが反応すると、相手が喜ぶのだ。
だから、俺は終始無視を貫く。
「どうせまた、楽人に頼るんだろ?」
そう思っていたのだが、俺はその言葉に足を止めてしまう。
「お前は楽人の腰巾着で楽人がいないと何も出来ないもんな!」
「............」
あぁ、白井の言っていることは間違っていない。俺が楽人に頼りっぱなしなのは事実だからだ。
白井から見れば俺は腰巾着も同然。別にそれを言葉にして否定してやるつもりもない。
「どうした? 何か言い返してこいよ」
だけど、楽人はきっと俺の事を対等に見てくれているし、俺も楽人を大切な友人だと思っている。誰に何を言われようとその事実は変わらない。
だから、やっばりその挑発には乗ってやれないな。
俺は振り返ることなく、再び教室へと歩き出す。
「チッ、つまんね~」
そんな白井の声が聞こえたが、俺はやっぱり振り返りはしなかった。
◆◆◆
「はぁ............」
俺は白井から大分離れた所で1人、大きなため息をつく。
非常に憂鬱だ。
俺はとうとう始まってしまったかと思う。
まぁ、白井と同じクラスになった時点で、遅かれ早かれこうなるとは思っていたんだ。
それが今になってやってきただけで。
「......本当に面倒くさい」
多分だが、今回の仕打ちのきっかけは先日にあった消しゴムの件だと考える。
あの時の俺の態度が気にくわなかった。理由はそんなところだろう。
まぁ、俺みたいな陰キャは恰好の的だし、これが俗に言う『目をつけられた』と言うやつなんだろうな。
それでも、白井の仕打ちに対してこのくらいかと思ったのも事実だ。
こんな悪戯みたいなもの、今時の初等部の方がもっと酷いことをするはずだ。
「あの時に比べれば可愛いもんだ」
今まで、絡まれなかったのは楽人のお陰だし、この事を楽人に伝えれば、きっと上手く白井を抑えてはくれるのだろう。
だけど、俺も楽人に頼ってばかりはいられない。
何から何まで助けて貰うのも申し訳ないし、俺自身もこのくらいなら何ということはない。
それにやり返してしまえば、最悪俺はペナルティを受けるし、白井はペナルティを受けたとしても金で解決できる。
それこそ白井の思う壺だし、俺にとっては完全にやり損だ。
だから、当分の間は無視を貫こう。それで俺に興味を失ってくれれば万々歳。
エスカレートしてきた時は──まぁ、その時に考えよう。
そう思いつつ、俺は再び歩きだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます