第9話 趣味を通じて


 それから数日が経過した。


 その間も俺と小鳥遊さんの寝たふりの関係は続いた。

 だけど、一番知りたかった俺と小鳥遊さんの接点については謎のままだった。

 それでも、数日間の寝たふりを通して色々と分かったきた事もある。


 それは小鳥遊さんが人見知りかもしれないということだ。


 小鳥遊さんと言えば、クールでミステリアスな完璧美少女で、どんな事にも動じずに対処するイメージがあった。


 しかし、どうやら人と話す事は苦手なようで、人を前にすると、緊張して言葉が端的になってしまうらしい。


 これにはさすがの俺もびっくりである。


 あのクールで淡々とした返しも、緊張の裏返しだと考えると何とも愛おしいと思えてしまう。

 本当のところを知ってしまうとギャップ萌えというやつだ。


 それに、そんな話を聞くと親近感のようなものを覚えてしまう。

 小鳥遊さん本人からすれば俺と一緒なんて迷惑かもしれないが。


「分からないもんだな」


 そして、もう一つ分かったことはその人見知りな性格を小鳥遊さんが気にしていると言うことだ。


 素性を知っている俺からすればそのままでも良いと思えてしまうが、本人は変えたいと思っているようだ。

 と言うのも、どうやら俺の挨拶活動(小鳥遊さん限定)に感化されたらしく、最近では小鳥遊さんの方から挨拶をしてくれることもある。


 だから俺も積極的に話しかけようとはしたんだが......


「上手く話せてる自信ないんだよなぁ......」


 そう、俺は女性を目の前にすると萎縮して少し言葉が詰まってしまう節がある。


 これは別に小鳥遊さんが怖い訳じゃない。

 もっと単純な──

 俺の気持ちの問題なんだろうな。


 これには多分だが、過去にあった女子生徒達とのいざこざが原因しているのだろう。

 そうなった理由は──まぁ、俺の信念を貫いた結果の副産物みたいなものだ。

 だから、その事自体を後悔なんてしていないし、間違っていたとも思わない。


 そもそも、あれだって初等部の頃の話だし、今はもう高等部。昔に比べれば、女性に対する緊張もかなり薄れてきた。

 それに、俺は積極的に小鳥遊さんの事を知りたい、仲良くなりたいという意欲があるし、最初に比べれば大分まともに話せるようになったのだ。


 だから、それを言い訳にしてばかりいちゃダメだよな。


 そうそう、小鳥遊さんの趣味についても分かった事がある。

 どうやら音楽──それも両性リバージャーのアーティストであるリアを良く聴くらしい。


 勿論、俺もリアの事は知っている。俺と同い年くらいなのに結構有名なのだ。

 それに楽人も好きなアーティストだったりする。


 リアの特徴と言ったらやっぱりその中性的な声だろう。

 両性リバージャーは定期的に身体が男と女で入れ替わってしまうのだが、今は薬でそれを抑えることが出来る。

 リアはあえてその中間(大分女性よりだが)で止めているからあの声を出せるんだよな。


 まぁ、両性リバージャーは大体十八歳前後で性別が片方に固定されるから、期間限定の才能と言う輩もいるが、俺はそうは思わない。


 リアは声だけじゃなく、技術や音楽性も優れているからな。


 とにかく、俺も音楽を嗜む身なので、音楽が好きという点では嬉しかったんだ。


 だから、休日にCDショップに来てみた訳で......


「いらっしゃいませ」


 店内に入るとレジに立っている自動人形オートマトンが俺を出迎えてくれる。


 分かってはいたが、やっぱり人は少ないな。


 そもそも今の時代において、音楽はダウンロードが主流だし、わざわざCDを買いに来る方が珍しい。

 汎用デバイスで大抵の事は出来るし、CDをインストールするのがちょっとめんどくさいっていうのも理由だよな。


 それでも俺はCDと言うものが結構好きだから、ここにはよく来るのだ。


 まぁ、CDを買った方がアーティストさんのためになるだろうし、俺も音楽を配信している立場なのでそれは分かる。


「さて、確か二階だったかな」


 目的のコーナーに向かって俺は歩きだす。


 リアの音楽はどちらかと言えばロックよりだ。

 そうじゃない曲もあるが、やっぱりロックの方が有名だろう。


 折角だしこの際にロックにも挑戦してみようかな。

 そうなると八倍圧縮の仮想空間に缶詰めになるわけだが、幸い俺には昼寝という最高の相棒がついている。


 趣味の話を通じて仲良くなれたらいいな。


 そう思いつつ、俺は二階のフロアを移動する。

 確かこの通路を曲がれば、お目当てのコーナーのはずなのだが......


 そこでふと、視界に映ったのはスラリとした体躯に、凛とした姿勢でリアのコーナーの前に立つ少女。


「え?」


 予想だにしなかった出会いに俺は驚き、思わず声を漏らしてしまう。


 そんな俺の驚く声に反応し、少女の綺麗な黒髪が揺れる。

 振り返った彼女もまた、大きく目を見開き声を漏らした。


「れい──じ君?」


 そう、俺は完全に油断していた。

 まさかこんな所に小鳥遊さんがいるなんて。








 




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