第5話 会話って難しいな



 仲良くなるためにはどうすれば良いか。

 それはお互いの事を知ることから始まるだろう。


 お互いを知るためにはどうすれば良いか。

 オープンチャットと言う手もあるが、先ずは直接会話をする事だろう。


 会話には切っ掛けが必要だ。

 いきなり、君の事を教えて欲しいと伝えても、反って不信感を与えてしまう事もある。

 適度な距離感とタイミング。

 これらを、意識する必要がある。


 そして、何よりも会話をしようとする意志が大切なのだ。


 現在の時刻は午前八時。

 場所は自身の教室──205号室前の廊下。


 掃除用自動人形オートマトンの影から対象である生徒──小鳥遊さんの姿を確認する。


 彼女は机に座りデバイスを触っていた。

 誰かと会話をしている様子もなく、今は一人である。


 落ち着け玲二。

 お前なら出来る。お前なら出来るぞ。

 例え、彼女いない歴=年齢&女性とほとんど会話したことないクソ陰キャだったとしても、今を頑張らない理由にはならない。


 彼女の事を知りたい。

 そう誓った筈だろう。


 足取りは重たく、しかしどっしりと。

 教室の前の扉から入った俺は小鳥遊さんの席がある通りを目指す。


 小鳥遊さんの机まで後、5m........3m........1m........


 落ち着いて、飽くまでさりげなく。

 今だ!


「た、小鳥遊さん! おはようございましゅ........」


 噛んだーーーーー!


「................おはよう」


 話そうとしていた内容。

 練習していた喋り方。

 それらが今の一瞬で全て飛んだ。


 小鳥遊さんの瞳がしっかりとこちらを捉えている。


 何か話せ........何か........何話そうとしてたんだっけ?

 挨拶の後、後は........

 そ、そうだ。目を見て話すのが大事だった。

 目を見て........小鳥遊さんの目を........っていうか睫毛まつげなっが! 髪めっちゃさらさらじゃん!

 これ本当に俺と同じ人間の顔なのか? 整いすぎだろ........じゃなかった。


 話すこと......話すこと......

 えーと........えーと........


「それだけでしゅ........」


「........そう」


 あぁぁァァーー! 終わったぁぁァァーー!



 ◆◆◆



 四限終わりの昼休み。

 前の席の住人もとい、唯一の友人である楽人と机を囲み昼食を取っていた。

 楽人のいつも通り彩り豊かな手作り弁当を見ながら俺は呟く。


「な~、楽人」


「ん、 どした?」


「俺ってダメだよなぁ......」


「いきなりどうしたんだよ」


「いや、自分のダメさ加減を再確認してた。こんなんじゃモテないのも当然だよなって」


 朝の一件から立ち直れない俺は唯一の友人である楽人に愚痴をこぼす。

 恥ずかしさのあまり、いっその事責め立ててくれた方が気持ちが楽になるというものだ。

 まぁ、楽人はそんな事はしないと分かってはいるが。


 そんな楽人は一瞬考える素振りを見せ、ふと口角を上げた。


「俺は結構玲二の事好きだけどな。でも、そう言う事じゃないんだろ?」


 少し意地悪そうな笑みを浮かべて愛の告白をする楽人。

 危ない。俺が女性だったらきっと今の一言でキュン死していただろう。


「はぁ~。俺って何でこうなのかなぁ」


「玲二が頑張ってるの知ってるぜ? 別に玲二の事好きな子がいたって変じゃないと思うけどな」


「そう言ってくれるのは楽人だけだよ。でもこれといった取り柄だってないし、自信ないよ」


「そうか? 顔だってカッコいいし、創作活動だって頑張ってるじゃん。もっと自信持って良いって」


 きれいな焼き目の付いた卵焼きを頬張る楽人。

 そう言われて少し心が弾んだが、すぐに整った顔の楽人と自分を比べて肩を落とした。


「本当、楽人は俺の事褒めてくれるよな。楽人みたいな彼女がいれば学校も楽しいだろうけど」


「..........」


「楽人?」


「いやいや、俺は男だっつーの!」


「そうだったな、悪い悪い」


 気の置ける関係だからこう言った冗談も言えるんだよな。

 少し沈んでいた心の重りが取れ、幾分か軽くなったような気がした。














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