第3話 唯一の友達



 何故、朝はこんなにも眠たいのだろうか。


 一日の始まりだというのに、何とも憂鬱な気分だ。

 特に今日は一段と眠たく、正直学校を休もうかと考えたくらいである。

 こんなに眠たいのは、やはり昨夜の睡眠時間の所為だろう。


 昨日は放課後の一件が気になり、十分な睡眠時間を確保出来なかった。

 勿論、白井の告白──ではなく、その後にあった小鳥遊さんの行動についてだ。


 悩みに悩んだ結果、やはりキスをされたのではないかという結論に至った。

 分かったのは多分キスをされたという事であり、何故キスをされたのかは未だに迷宮入りだった。

 悶々とした気持ちで、『何故』を考えていたら一夜が明けてしまい、今に至るといった感じである。


「今日は一段と眠そうだな」


 頭上付近で馴染みのある声が聞こえた。

 ふと、顔を上げれば、笑顔が眩しい爽やか系イケメンがこちらを覗き込むように見ている。


「おはよ~、楽人」


「おはよう、玲二」


 彼は同じクラスメイトの新橋楽人しんばしがくと

 俺の唯一の友人だ。

 無造作に整えられた髪型に、びっくりするほど整った容姿と、天性の爽やかを併せ持つ正真正銘のイケメンであり、何でも高水準にこなすスペックの高さなら、あの小鳥遊さんに並ぶ逸材でもある。


 そんな完璧超人な彼だが、その事を鼻にかける事無く、非常に性格も良い。

 何故、俺なんかの友達をしているのか俺自身も分からないが、楽人には何度も助けられている為、気にしないことにしている。

 多分彼が居なければ、俺のようなイン──控えめな性格の生徒はイジメの対象になっていたことだろう。

 楽人マジで感謝。


「あー。今月の友達料金払ってなかったわ。いくらくらいだ?」


「玲二なら無料プライスレスだぜ。しかも、永久保証付きで。お買い得だろ?」


「買う買う! 全部買います!」


 素敵! 抱いて!


「で、何でそんなに眠そうなんだよ」


「それがさ、実は──」


「ギャハハハハ! マジ?」


「マジマジ!」


 喉元まででかかった言葉を遮られた俺は廊下側の席を見る。

 すると、白井を含むクラスでもカースト上位のグループが、大きな声で会話をしている最中だった。


「クソヤ──白井達は朝から元気だな」


「まぁ、そうだな。元気なのは良いことだが──」


 複数の机を囲んで、会話に華を咲かせる白井グループ。

 よくよく見れば、本来その席の住人である女子生徒のいずみさんが、近くで困っている姿が見えた。


「泉さん困ってんじゃん」


「あぁ、ちょっくら行ってくる」


 そう言って、白井グループに近づいた楽人は、泉さんの席を占領していた男子生徒──山川に声を掛けた。


「よっ! 山川」


「あっ、ガクちゃんおはよう。ガクちゃんさ~、昨日のドラマ見た?」


「勿論見たぜ。ラストのシーンが──っとその前に後ろの方行かね?」


「え?」


「そこ、泉さんの席だろ? 泉さん座れなくて困ってるからさ」


「まじ? わりぃ」


 楽人の言葉にはっとした山川が椅子から立ち上がる。


「あの........新橋君、ありがとう」


「良いって良いって。気づくの遅くなってごめんね」


「そんな........本当に、あ、ありがとうございました!」


 頬を朱く染めた泉さんは、もじもじしながら、楽人にお礼の言葉を述べた。


 あっ。これはあれですな。

 泉さん落ちましたな。


 遠くから、楽人達の行く末を見守っていた俺はそんな感想を抱いた。

 毎度の事だが、楽人は本当に良い奴であり、モテるのも納得だ。

 楽人本人は自分がモテている事に気がついていないらしいが........そんなちょっと抜けている所も彼の美点だろう。


 楽人が白井グループを誘導してくれたお陰で、先ほどよりも五月蝿うるさくなることはないだろうし、これで俺も安心して眠れるというものだ。


 俺は親指を立てながら、深い睡魔の渦へと沈んで行ったのだった。


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