第8話

「夏帆さん。お仕事うまくいってますか」

初めてのスタバデートで仁一朗が夏帆にたずねた。

「仁一朗さんは無職のプータローなのよね」

「ウッ、グサ。こたえるなあ。事実

そうですけど」

「なんで、お仕事なさらないの」

「そっ、それは」

仁一朗が言葉に詰まった。

「まあ、信念というか」

「どういう」

「突っ込むなあ」

仁一朗が頭を掻いた。

「仕事するとオレ不幸になると思うんです」

「どうして」

「好きでもない仕事をするのは体にも悪いと思うんです」

「たしかに、そうね」

「夏帆さんは今のお仕事、経営プランナーだったっけ

好きなんですか」

「やめたわ」

「へっ?」

仁一朗が素っ頓狂な声を出した。

「どうして」

「だって、仕事に見合うお金が入ってこないんですもの」

「はあ」

仁一朗が恐らく間抜けな顔になった。

「じゃあ、今は」

「土地を10ヘクタールほど買って、毎日耕してるの」

「ちょ、ちょ、ちょっと、夏帆さん」

「耕し終わったらダイコンやピーマンや数の子やタガメやヤギや

イオンや象やクジラを植えて丹念に育ててみようと思うの」

「それ、本当の話なんですか」

仁一朗が思わず聞き返した。

 夏帆の目から見る見る涙が溢れ出してくる。

 仁一朗はシマッタと思った。


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