第6話

「FKT48にこんな子いたっけ」

波太郎が仁一朗の耳もとで囁いた。

「さあ」

ニートオタクの仁一朗はこういうことには

詳しかったが、仁一朗の記憶にも

夏帆のデータはなかった。

「経営コンサルタントといいますと」

仁一朗が珍しくうやうやしく夏帆にたずねた。

「主に中所企業の立て直しに日々、尽力致して居る

所存でございます」

「はあ、さようでございますか」

「アホ」

野菊が仁一朗を一蹴した。

「どうしてアイドルをやめたんですか」

波太郎が夏帆に質問した。

「何せアイドルは浮き沈みが激しいでしょう。だから資格を

取って何かやろうと思って」

「仁一朗、耳が痛いだろうけどよく聴いとけよ。これが

人生と仕事に対する正しい姿勢だぞ」

「やかましいわい」

仁一朗が耳を穿った。

「そうよ、仁一朗。アンタも何か資格でも取った方が

いいわよ」

「やかましいわい」

仁一朗がさらに耳を穿った。

「これわたしの連絡先です。よろしかったらどうぞ」

夏帆が仁一朗にメモを手渡した。

仁一朗が自分を指さして何が起こったのかわけがわからないような

顔をした。

仁一朗と夏帆を交互に冷ややかな目で見る野菊。

「あっ、ありがとうございます」

仁一朗が勢いよく立ち上がって、深々と夏帆に向かって

アタマを下げた。

仁一朗、はじめての恋。

ひとめぼれだった。

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