命乞四景・怪異殺血首野晒

 どうかそのままでお願いします。こちらの都合で申し訳ないんですけど、今回はこういう趣向なので。

 首転がしておいてそのままっていうのが生殺しだっていうのは分かってますけども、こちらにも事情があるんですよ。いつもならこういう、嬲るような真似は極力しないようにしているんですが。そもそも趣味じゃないんですよね、性格的に合わないというか……必要ならね、やるしかないんですけども。仕事なので。

 心当たり、ありませんか。あなたがしたことなのに。

 それとも覚えていないほうですかね。だったら──そうですね、重くなりますよ、責任。自業自得ってやつじゃないですか。怪異ってだけでも業が深いのに、更に重ねていくっていうのも面白いですね。私に言われるようなことでもないでしょうが。


 そうですね。では率直に申し上げるんですけど。

 子供を食べましたね。いけませんよ、そういうこと。


 怪異ってだけなら見逃せたかもしれないのに、人を食べたらね。それはもう脅威なんですよ我々にとって。

 今だと不良グループ、というより半グレとの方が呼び名として主流なんでしょうかね。私が学生時代の頃もそうでしたけど、不良というか……人の言うことを聞かない人ほど、そういう連中同士で集まるのはどうしてなんですかね。悪さするにも中途半端というか、地元の老舗本式の筋者には上がれないんですよね、そういう方々。善悪の話はともかくとして。

 その辺りで目星をつけたんじゃないですか。群れたがりの寂しがり、その癖人一倍他人に自分を認めさせたくって仕方がないような、子供。しかも不良連中はぐれものなら、手を出してもすぐには騒ぎにならない。その通りだから面倒な話です。

 そいつに似たような子供を集めさせればいいって、そういうことを考えましたね。そのために地元の不良グループに接触して、わざわざ自分の業千里眼まがいまで貸し与えて──加護どころか首輪でしょう、そんなもの。


 相談記録が市役所に残っていました。十八区の幽霊屋敷に若者が出入りして深夜に騒ぐので困っている、典型的な騒音被害の相談でした。幽霊屋敷、好きですよね、あの手の人たち。肝試しとか廃墟探検とか……駄目だって言われると、かえってやりたくなるんでしょうね。

 役所の方々も立入禁止って馬鹿でも分かるような立看板やら鍵やらを設置しているのに、こうも無視されるとやるせない話です。どうしたものか悩んでしまうんですよね、一応ほら、迷惑行為をやらかすような方々でも、市民である以上は粗末に扱えませんから。警察でも市役所員でも、いきなり侵入したやつの脳天を鉈で割る、みたいなことはできないんですよね。面倒ですけども、人権ってものがありますので。現代社会なんですよね、こんな地方都市でも。


 しかも、


 接触があった相手に感染し憑りつくっていうのは、怪異がよく使う手口ではありますけども──それをあの規模でやられると対応する側としては困るんですよね。

 頭も手下の有象無象も平等に、いざってときの依坐スペアにするような仕掛けをしていましたよね。さすがここに巣食って長いだけはある。万一自分の身が危うくなるような事態になった場合に備えて避難先を用意しておくの、堅実ですね。

 もっと早く対処しておくべきだったと個人的には思いますが、今回みたいなことにでもならない限りは手出しもできませんからね。被害が出てからじゃないと予算使うのに納得頂けないんですよ、市民の皆さん。


 そういう手間のかかった有様だったから、手下も上役も関係者も諸共始末しておく必要があったんですよ。例えばあなただけを片付けても、スペアが残っていたら振り出しでしょう。だから、一度に終わらせる必要があったんです。

 幸いこちらにも手数はあるので、分担したんですよ。先程報告が来まして、憑依先候補の始末が完了したことを確認しました。あなたも感覚的に気づいているでしょうけど。それともあれですかね、端末切られたくらいじゃ反動も大したことないやつですか。その辺個体差ありそうなんですよね、経験上。

 不良の方々、そこだけは悲惨かもしれませんね。とばっちりですから──怪異と取引するからには、どうあがいても末路はろくでもないことになるんですけどね。まあ、その辺りを考えられるようなやつだったら最初から不良になんぞならないでしょうけどね。

 悪因悪果、悪いことすると酷い目に遭いますから。リスクを考えるの、大事ですよ。人生においてはね。


 そうですね、私は大元あなたの担当です。

 ここに私が来たのは、あなたを殺すためですので。


 先程も申し上げましたけど、手数はあるんですよ。こういう真似をする連中、他にもいるんですよ。首狩り、って名乗ってますけど。ほら、生き物には首があるでしょう。首、手首、足首、乳首って……そういう急所を斬って殺す連中です。物騒な言い方になりますが、今更取り繕ったところで、ねえ? 最近は悪党と怪異しか斬らないようにはしてますしね。公務員みたいなものなので、ええ。

 私がこちらに来たのは適切な人員配置の結果、というか。一対一がね、向いてるんですよね、やり口的に。多対一が得意な方々もいるので、その辺りを協議したんです。得意分野で割り振った方が、効率よく仕上がるじゃないですか。


 ところでこちらの胴体、まだあなたのものなんですよね。いや、さっきからうねうねしてるんで、ちょっと嫌だったんですけど……ああ、くっつけないとは思いますよ。ちゃんと焼き切ったんで。あるんですよそういう技術。抜き打ちで、こう──要りませんか、説明。分かりました。ちゃんと手足も外しましたから、どうやっても立てませんね。

 怪異あなたがたを相手にすると、こういうことよくあるんですよね。ええと、物理的に分離はしたんですけど、霊的な結合はそのまま、というか。今実感してらっしゃいますよね、きっと。感覚は残っているのに動かせない、不自由でしょうがこらえてください。必要な段取りだったので。

 いつもなら斬っておしまいなんですけど、今回はほら、こうやって説明する必要がありましたので。やり口からあなたと会話が成立するっていうのは分かってましたし……自分が何をしたのか、どうなるのか、そういうのをね、怪異相手でもきちんと理解して頂いた方が後生がいいかなっていう方針になったんですよ。読経みたいなものですね。

 首斬って殺せてないのは、まあ。私、首は本業じゃないんですよ。それは他の家の方の担当なんで。はい。乳首なんですよね、箇所が。


 大丈夫です。痛くしますので、ちゃんと死にたくなると思います。


 そうすれば死ねますから、安心してください。怪異でも人でも、それは変わりません──それが私の生業ですので。そこの保証はきちんとしてるんですよ、仕事ですから。

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