思い知る
「戻りました!」
元気な声を出してサービスカウンターに戻る。するとサービスカウンターの中にいた幹本さんに話しかけられた。
「さっき、大変だったんでしょ?」
「ああ、聞いたんですね。」
「星川さん、頑張ってるんだから、そんなの気にしちゃだめよ!」
「はい。ありがとうございます。」
幹本さん、優しいな。ここのスーパーの人はみんな優しい。だから私も働いていられる。
「6時からカウンター?」
「はい、そうです。」
「クリスマスケーキの受け取りがジャンジャン来てるから頑張ってね。じゃ、あたし6時までだから。お疲れー!」
「お疲れさまでした!」
幹本さんがあがっていく。その背中はなんだか嬉しそうだった。
クリスマスケーキの受け取りはこの時間がピークになる。ここを乗り切れば残りは1時間ほど。落ち着いて仕事ができるようになる。
「あの、クリスマスケーキの受け取りに来たんですけど……。」
「はい、予約票の控えはお持ちですか?」
「これです。お願いします。」
「12番のケーキですね。お待ちください。」
予約票とこっちで保管してある控えを確認する。うん、合ってる。そして、マイクで館内放送。
『クリスマスケーキ12番、お願いします。』
そうすると、ケーキ運び担当のスタッフがケーキを持ってくるので、あとはその人におまかせする。料金は前払いなのでそんなに難しいことはない。ただ、これがいっぱい来るから大変なわけで。
「クリスマスケーキお願いしたいんだけど。」
「こちらで承ります。あ、後ろお待ちのお客様は赤い線の上でお待ちいただけますか?」
一時間ずっとこういった接客をしなければいけない。私に目が4つとかあれば楽なのに。
「星川さん、私もカウンター入るよ。」
「ありがとうございます。次のお客様お願いします。」
「うん。お次お待ちのお客様、こちらへどうぞ。」
事務所から戻ってきたチーフが自分一人でバタバタとやっていた仕事を軽々とこなしていく。その隣で私も必死に仕事をこなしていく。レジもだんだん混雑してきた。
「星川さん、店長呼んで。」
「はい。」
館内放送で店長を呼ぶ。勢いよく走ってきた店長は盛況ぶりに驚きながら、空いているレジに入った。
「お次お待ちのお客様、こちらも開きましたのでどうぞ!」
店長がレジに入ったところで空気がピシッと引き締まる。そのお陰で私もちゃんとやろうと思った。
「順番にお伺いいたしますので並んでお待ちください。」
もし何かあってもチーフと店長がいるから大丈夫。その安心感がいつも通りの接客をさせてくれた。
「ありがとうございました!」
一時間ほど経つと混雑がおさまって、レジを見る余裕が生まれた。いつの間にか、店長は居なくなっていた。
「星川さん、お疲れ!」
「チーフも、お疲れさまです。」
「やっと一段落ってかんじかな。あとここ任せちゃって大丈夫?」
「大丈夫です。」
「もし何かあったら内線で呼んで。じゃあ、よろしくね。」
「はい!」
大量の客を捌き、一仕事終えたチーフはすっきりした顔でサービスカウンターから去っていった。私もフッと一息ついて閉店の準備を始める。その後1時間ほどは、クリスマスらしからぬ、ゆるゆるとした時間が流れていた。
「レジ閉め終わりました。」
閉店時間が近付き、続々とレジ閉めを終えた学生バイトの子たちがサービスカウンターに戻ってくる。
「お疲れさま。」
「お疲れさまです。」
学生たちが帳票に記録を残していたとき、学生バイトの一人、森沢さんという女の子が私に声をかけてきた。
「星川さん、クリスマスの予定ないんですか?」
「うん。特にないかな。」
「えー、そうなんですか。星川さん一緒に過ごす人いそうなのに。」
「それがいないんだよね。」
「へー、意外です。」
「森沢さんは、どうなの?」
「私は、バイト終わったあとサークル仲間と飲み会です。私がバイトあるからって時間遅らせてくれたんですよ。」
「優しい子たちだね。」
「そうなんです。」
嬉しそうに話す森沢さんがなんだか羨ましかった。私も誰かと一緒に過ごせたらよかったのに。そうすれば仕事もやる気出たのかな。
「星川さん、私あがるね。」
いつの間にかチーフが後ろにいて少し驚く。
「ごめん。驚かせるつもりなかったんだけど。」
申し訳なさそうに言うチーフ。そこに森沢さんが声をかける。
「チーフはこのあとどっか行くんですか?」
「私は友達の家でクリスマスパーティーするよ。」
「わー!いいですね!ケーキとか買ってくんですか?」
「いや。友達が予約しといてくれたから、私は飲み物持ってくだけ。」
「そうですか。楽しんでください!」
楽しそうに話すチーフと森沢さん。そんな二人を私は遠目で見ていた。
それじゃあ星川さん、このあと何かあったら店長に言ってね。おつかれ。」
「お疲れさまでした。」
これまで友達や、パートナーを探して来なかった私も悪いけど、クリスマスに思い知らされるなんて想像していなかった。
「ま、クリスマスなんてただ外国に乗っかってやってるだけなんで、一人で過ごすのもありだと思いますし、意外と楽しいかもしれませんよ。」
森沢さんのフォローが地味にグサグサと心に刺さる。
「賑やかに過ごせるなんて羨ましいよ。」
「楽しんできます。お土産話待っててください!」
そうこうしているうちに店は閉店し、私も仕事を終え帰路に着いた。
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