ひとりクリスマス

青夏

忙しい仕事

 今日はクリスマス。キラキラしたイルミネーションとキラキラした人々によって街は明るく彩られる。そんな中、私は勤務先のスーパーへ向かう。クリスマスを一緒に過ごす友達も彼氏もいない私は、働く以外にすることもない。そんなことを考えて、少し憂鬱な気持ちになりながらサービスカウンターへ向かった。サービスカウンターには先に出勤していたチーフがいた。

「星川さん、おはよう。」

「おはようございます。」

 私の出勤は朝12時。ここから閉店の夜9時まで働き続ける。

 ここのスーパーに入社して2年目。去年のクリスマスは実家に住んでいたため、クリスマスパーティーをするだのなんだので8時にはあがらせてもらって家で賑やかにしていた。しかし、今年から一人暮らしを始めたので家でのクリスマスパーティーなどなく、親しい友達もいないため、閉店までの勤務になった。

「星川さん、もし良かったら休憩室に飲み物買っといたから貰ってって。」

 クリスマス出勤なのに、わざわざ飲み物を買ってくれるなんて。チーフが神様に見えた。チーフは30代半ばくらいでとてもかっこよく、友達もいっぱいいそうな明るい人だ。チーフだってクリスマスくらい家でゆっくりしたかっただろうに。そう思いながらサービスカウンターからレジへ向かう。

「4番レジ交代します。幹本さん、休憩です。」

「はーい。」

 休止板を立てて交代してくれる。

「今、空いてるからいいけど、朝は混んでたわよ。星川さんもクリスマスまで出勤なんて大変ね。」

「いや、本当に。幹本さんもお疲れさまです。」

「じゃあ、お願いね。お疲れ様。」

 そう言った幹本さんはバックヤードへ歩いていった。幹本さんはお子さんがいて大変なはずなのに、最近、ほぼ毎日朝から働いてくれている。そう、この時期のスーパーマーケットは繁忙期なのである。クリスマスが終われば年末。大晦日が一年で一番忙しい。1万円以上の買い物なんてザラである。ただ、そんなお客様が多いゆえ、普段一人で入るレジに二人で入れるのも楽しみの一つ。年末を楽しみに仕事をしている。

 レジに入って一時間ほど経った。だんだん店内が混んでくる。忙しくなるぞ、と思ったそのとき。

「あれ、結羽じゃん。」

 地元の、そこそこ喋ったことがある知り合いが来た。下の名前で呼び合うほど仲がよかった覚えはない。

「クリスマスも仕事?大変だね。」

「そんなことないよ。」

「たまには休まないと鬱になっちゃうよ。」

「大丈夫だよ。」

「そう?」

 適当な返事をしながらレジを打つ。レジを打ちながらの会話は頭を使うし大変だ。

「2000円だよ。」

「えー、すごい!ぴったりじゃん。じゃあ、現金で。」

「すごいね。はい、レシートです。」

「じゃ、またねー!」

「ありがとうございました。」

 どうしようもないけど、やっぱり、知り合いが来るとレジが長くなってしまう。

「次、お待ちのかたどうぞ。」

「遅いんだけど。」

「申し訳ございません。」

「ねぇ、ママ!あのお菓子のカバンほしい!」

「もう!買わないって言ってるでしょ!ちょっと、店員!あんたのせいでうちの子の気が散っちゃったじゃない。」

「申し訳ございません。」

「大体、ここのスーパーはねぇ……。」


 客の文句は続く。私だけが原因じゃないから、私に八つ当たりされても困ってしまう。

「5860円です。」

 少し息を吐きながら金額を伝えた。それが、良くなかったんだと思う。


「ちょっと、私の話聞いてた?それに、客の前でため息吐くなんて信じられない!責任者呼んできなさい。」


 やってしまったと思った。もちろんため息を吐いたつもりはないが、そう見えてしまったなら仕方がない。謝るしかない。

「申し訳ございません。」

「謝って済むわけないでしょう!早く!」

「はい……。少々お待ちください。」

 私は休止板を立ててチーフのもとへ向かった。

「チーフ、すみません。お客様が……。」

「わかった、すぐ行く。星川さんはレジ戻ってて。」

 そして、チーフは走って客のもとへ向かった。その対応の素早さは私とは大違い。

「お客様。お待たせいたしました。サービスカウンターでお伺いしてもよろしいですか?」

 そう言ってチーフは客をサービスカウンターに連れていった。

「店員の教育がなってないのよ!」

「申し訳ございません。」

 客の怒鳴り声と、チーフの謝罪の声が聞こえてくる。今すぐにチーフに謝りたい気持ちでいっぱいだけれども、私はここで普段通りの接客をしなければいけない。

「こんにちは、いらっしゃいませー。」

 そんな調子で時間が経って、いつの間にか休憩の時間になっていた。落ち込みながらバックヤードに入ると、事務所でチーフが作業していることに気づいた。そういえば、サービスカウンターにいなかった。

「あの、チーフ……。」

「お疲れ様。大変だったね。」

「あのお客様、どうされました?」

「責任者としてしっかり教育しておきますから、またお越しください、って言ったらため息ついて帰ったよ。」

「すみませんでした。私のせいで、チーフが怒鳴られて。」

「あんなの、いつものことじゃん。忙しくてみんなピリピリしてるんだよ。怒鳴られるの、私は平気なんだけど。それより星川さんは、大丈夫?」

「私は、大丈夫です。」

「ちゃんと休みなよ?」

「はい。」

 今ちゃんと笑って話せていただろうか。チーフに心配をかけさせてしまった自分が情けない、そんな気持ちで休憩室に入った。

 休憩室のテーブルの上には、飲み物がたくさん置いてあった。そういえば、チーフが貰っていっていいって言ってた気がする。たくさんの飲み物の中からペットボトルのお茶を手に取り、休憩室に腰掛ける。はぁ、とため息をついて頭を抱えた。集中しなきゃ、後半は絶対に。

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