第2話 ゲームプレイヤー:ユーダ

 そんなわけで念願(?)の異世界転移である。野原と森が緑色。自然豊かな風景が目の前に移っている。高いところから見下ろしているなと思う。ただし、これだけでは異世界と断言できない。こういうものなら、地球にだってあるのだから。


 さて。すっぽんぽんだったらマズイ。見た目をチェックしなければいけない。念のため体を出来る限り、見てみたわけだが、普通に服を着ていた。漆黒で纏っているザ・厨二的なものだ。長いコートが物理法則に従っていない時点で察した。感覚は特に問題なし。リハビリの先生じゃないので確定ではないが。


「あ」


 ズボンのポケットに手を突っ込んだら、何か入っている感触があった。それを取った。皺くちゃになっている紙。ローマ字のようでそうじゃない謎の文字なのに、何故読めるのだろうか。これも女神さまの恩恵か。とりあえず読んでみる事にする。


『ミスターウダ。いや。ユーダ』


 げ。ユーダと言う名は……MMORPG「ナイン・ワールド」の名前だ。高校時代に作ったアカウントだ。


『ゲーム時代に習得したスキルや魔法などを与えました。慣れるまで不便かもしれませんが、勇者と共に世界を救ってください』


 就活してからはログイン回数減ってきていたが、これでも有名プレイヤーだった。スキルと魔法構成がバフ特化だったためだ。それだけではなかったと今更ながら思う。動画投稿者のダダッコさんで大体バッファーとして活躍していたことも大きかった。ありとなしで火力が違っていた。たまにタイムアタックで呼ばれる時もあった。


 問題点としてこれはゲームではなく、現実であるということだ。操作一つで出来るほど甘くはないだろう。簡単な仕様だと助かる。そう思ったら、目の前にSFみたいに透明の画面が現れた。ずらりと魔法の名前が書かれている。これ……めっちゃ便利では?


「とりあえずサーチ」


 誰でも習得する索敵魔法を使ってみた。被害が出てくるリスクが少ないし、周辺を探る必要もあったためだ。周辺4kmの地図が出た。異世界なのに日本と変わらない仕様はヤメテ。広葉樹林っぽいマークがたくさんなのは分かっていたし。おっと。小道っぽいところに赤い点が複数。黒い点が複数。エネミーっぽいのが赤でいいのか。攻撃系の魔法は申し訳程度だが……久しぶりに自己バフしとけばいい。相手が弱ければ、倒せるだろう。


「確か空中移動出来るのあったな。あったあった」


 透明の箱を空中に置く魔法。非戦闘時に魔力消費で透明の箱を作り、発動時に座標を指定することで使えたはずだ。現役の時、魔法スロットは最大九つしか選択できないし、使えないタイミングもあった。今回はどうか。おっといっけね。すっからかんだった。当たり前か。ちゃちゃっと箱を作って、大体この辺りに置いておこう。下っていく感じで。OK!


「アクセル!」


 加速魔法で走る。魔法があるとはいえ、こんなに速いとは思わなかった。チャリと同じぐらいでは? 木にぶつからないようにしよう。ドジっ子ではないが、ぶつかったら痛いし。


「こっちか!」


 森を切り抜ける。小道には倒れた馬車。執事。スーツ姿の護衛っぽい人が応戦中。強盗の類だったか。待ち伏せで襲ったと言った感じだろう。


「誰だ!?」


 当然の反応だ。強盗は六人。武術の心得なんていうものは持っていない俺にとってやれることは……魔法による応戦のみ。ファイアーボールは周辺に悪影響を及ぼすから却下。ウォーターボールは恐らく効果がないままで終わりそうだから却下。パラライズの初級なら、相手を麻痺させるだけで十分だ。これにしよう。


「相手は一人だけだ! 怯むんじゃねえ!」


 剣が怖い。実際に目にしてみるとマジで怖い! なんで物語の主人公は平然と戦うことができるのだろうか。恐怖心があったら、体の動きを鈍らせる。これはマズイ。クールダウンという魔法を使うのもありだが、ボンボン使うわけにはいかない。それにこれからもっとキツイものが来る。このままで行こう。魔法とか銃とか使う気配ないのが幸いだと思っておこう。ちょうどいいタイミングで来てくれた。よし。どんと来い。


「パラライズ!」


 強盗の一人の動きが止まった。よし。あれ。そういえばマップ上に人が増えているような。


「出ておいで! サリーちゃん!」


 お姉さんっぽい声。「サリーちゃん?」と困惑したら、土から何かが出てきた。でっかい白い蛇。十mはあるだろう。これだけ大きいといくら強盗でもビビるものだ。言葉通りの蛇睨みだ。


「せえの!」


 強盗が怯んだタイミングと同時に少女の声。白い衣装を纏っている。十字の飾り。金髪赤目の美少女。腰にレイピアのようなものがあるから、それを使って戦うものだと思っていた。


「おっりゃあ!」


 ……拳で殴っていた。それでいいのか。レイピアが泣くぞ。いや。現時点で泣いているのは強盗だが。


「いやあ。派手にやってますね」


 最後にゆっくりと現れたのが大きい盾を持つ大きい女性。骨格がガッシリしているし、めちゃくちゃ短い髪ということもあり、男と見られてもおかしくない。声も低めで、ボーイッシュ系として完璧では?


「ですね」


 こういうなろう系はヒロインを助けるというイベントが起きるものなのだが……流石になかった。十字の髪飾りの子がぶっ倒していたし。それでも全員可愛かったり、綺麗だったりで、個人的に満足である。

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