第9話  魔王の娘

四組とのドッチボールを制したアルト達

元勇者パーティはその後の練習試合も予想通りというか、予想以上に無双した。

司令塔であるアルトの的確な指示

物理戦闘なら最強であるカルナ

魔法職でありながら近接戦闘も出来るイーナ

森育ちで身体能力なら俺の上をいくリーファ

支援魔法でパーティを支えるエリーゼ

正直言ってこのパーティに勝てる可能性がある存在としたら、魔王くらいだろう。


それから二限目はバスケ、三限目はサッカーと続き、四限目は野球だ。

「エージル流 空穿ち!」(そらうがち)

カキーンと、いい音を出して球が空に飛んでいき、あっという間に見えなくなった。

エージル流"空穿ち"とは下から掬い上げるような逆袈裟斬りを放つ技であり、当然普通の逆袈裟斬りより威力が段違いで場合によっては地面が抉れる事もある。

だからこれまでの無双しすぎを少し反省して、エリーゼに弱体魔法“ウィークネス"を

俺達パーティのみに掛けてもらい、頑張れば勝てるレベルまでにステータスを下げてもらった。

まぁ、それも無意味だったと今気づいたが。


「弱体魔法も意味をなさなかったか」

ため息をつくアルト

「ステータスは下がってもレベルは下がらないから」

当然のように言うイーナ

「剣聖はもとより筋力と体力が高いから当然と言えば当然だけど」

とイーナに追随するように言うリーファ

「勇者様とカルナさんは特に念入りに掛けたつもりなのですが」

おれとカルナには強くデバフを掛けたというエリーゼ


俺たちがそんな話をしていると

(ビシッ)

とヒビが入ったような音がして周り見渡してみると

「アルト、あれよ!」

リーファがそう叫んで空を指差した。見上げてみると確かに空の一部に亀裂が走っている。

「あれって、まさか」

イーナが呟くと

「えぇ、間違いありません、あれは時空魔法です」

エリーゼがそう答える。


時空魔法とは時間魔法と空間魔法を混ぜ合わせたものと思われているが実は元々最初から一つだった魔法を後から時間と空間の二つに人が分けたものだったのだ。

だが、分けたのも理由がある、そもそも時間も空間も他の属性魔法とは系統が異なり、属性魔法はその世界を形成する精霊達の力を借りて事象の一部を人の手で再現するものであり、対して時空魔法はこの世界の根源的な部分に作用する魔法な為、一つ習得するにも少なくとも百年以上かかる。その為異世界でも使える者はなかなか居なかったし居てもせいぜい数秒時間を巻き戻したりとか半径10メートル先に転移できるとかのものだった。

それでも異世界では天才扱いだったらしいが、俺は普通に使えたし、時空魔法は詳しく言うと古代魔法に分類される魔法だから

スキルに"古代魔法"を覚えてる俺にとっては結構頻繁に使ってた魔法だったわけだ。


(バギンッ)


俺がそんな事を悠長に考えてるうちに空の一部が割れ、その先の歪んだ空間から空間を渡って来た正体が姿を現した。そいつはうちの学校の体育館並みの巨体を誇り、強靭そうな前足と後ろ足と長い尻尾に空を覆いそうな翼が生えていて、何より目を惹くのは首元から生えている九本の首だ。

赤、青、茶、緑、黄、空、白、黒、それぞれ首の色が違いその中で一際大きい首は銀色でその見た目はコブラみたいな首をしていた。


「カオス・ヒュドラゴン....」


イーナがそう呟く

「カオス・ヒュドラゴンだって!馬鹿な、そいつは既に倒したはずだ!」

カルナが驚きながらそう叫ぶ。

「いや、アイツは確か魔王軍の切り札と言われる召喚獣だったはずよ」

リーファがそう冷静にいうと

「確かに、召喚獣であれば召喚クリスタルが無事なら何度でも呼び出せますから」

エリーゼも納得する。

「取り敢えず先ずは他の奴らを避難させるぞ!」

俺がそう指示を飛ばす、よく見れば俺のパーティメンバー以外は突然現れた怪物の威圧感に腰を抜かして動けなくなっている。俺達がなんとか立ち上がらせて逃げるように促していると、突然大きな声が響いた。


「勇者よ!父上の仇、討たせてもらう!」


よく見るとコブラみたいな頭の上に少女が仁王立ちしてるのが見えた。今あの少女は父上の仇と言った、それに俺が勇者だと知っているという事は、あの少女もしかして、魔王の娘なのか⁉︎

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