第5章 小さな鳥が大空にはばたく
28
8月の最後の土曜日。
僕たちは都心にある秋葉原駅で待ち合わせた。早朝の空気は少しひんやりしていて、なんだか気持ちよかった。
「お待たせ!」
これまたひとり遅れてやってきたのは、ことり先輩だった。彼女の姿に、みんなの目が驚きを隠せなかった。
こちらの制服と全く異なる姿。
肩を出したデザインで、スマートなスタイルを覆うまるでドレスみたいな深緑のワンピース。まるで高校生の私服に見えない、とびきりのお洒落だった。
「深緑じゃなくて、ビリジアンっていうのよ。
ママに買ってもらったんだ」
今日のためにイベントのために気合を入れてきたのだという。少しは母親と仲良くなったようだった、なんだか安心できた。
会場はここから5分程度のところにあるイベントスペースだった。エスカレーターを上っていくと、すでに全貌が見えてくる。全面ガラス張りの建物に、感嘆の気持ちよりも緊張が見えてきていた。
参加者全員の期待が集まるイベント会場、それがUDXだ。
「有坂ことりです、他合わせてチーム<
「あ、お待ちしていました。
この名札を目立つ位置に付けてください、イベントの参加者になりますので」
受付を務める女性はことり先輩の姿を二度見している。さすがにワンピースが派手なのだろう。
その後、小さなバッジをみんなに手渡してくれた。
中で応対しているスタッフによって、僕たちは会場に通される。
そこには中央にある大きなステージとは別に、窓際に並んでいる小さな丸いテーブルが点在していた。
テーブルは参加者ごとのブースになっている。設置されているスマートフォンを触ってゲームを遊ぶことができるわけだ。それは天井から吊り下げられているディスプレイに接続されていて、プレイしているのが大画面で映し出される仕組みになっている。
チーム名が書かれてあるパネルと配布用のパンフレットはもうすでに設置されていた。
「しい君、ちょっとだけ遊んでみて」
ことり先輩に促されて、スマートフォンをいじってみた。ゲームの動作を確認してみるが、問題はなさそうだった。
会場を軽く見渡してみる。他の参加者も作業をしているようだった。彼らはどんなゲームを作ってきたのだろうか。
その時、会場の灯りが点灯した。
......ついに、僕たちの作品を公開することになる。みんなの自然と表情が硬くなっていく。
ことり先輩はスカートの裾を握り締めていた。
・・・
この大会はゲームの完成度とソースコードの良し悪しを運営側が判断する。その上に来場した一般客の投票を加算する、という方法だ。ただし、それぞれが何点であり何票かは教えてもらえない。
お客さんは順調に足を運んできてくれた。
大学生のグループが遊んでいるのを見ていると、感心している感じが見受けられる。どのステージまでいったのか見てないけれど、ゲームオーバーしてしまったようだ。彼らは、なるほど、とつぶやいて立ち去っていく。
投票券はさすがに入れてくれなかった。
「他に見たいブースがあるのでしょう」
瑠璃さんの言う通りなのかもしれない。ひとり一枚しか持ってない券を使うには、すべてのゲームを遊んでからするべきだ。
小一時間ほど経ったところで、会場の様子を見渡してみる。
なんていうか、偏りがあるんじゃないか? みんなもそう思っていたようで、お互いの顔を見合わせる。
「さっきから、うちのゲームを遊んでくれないですよ」
「くやしいなあ」
絵里と和也は不安の声をもらした。その気持ちがこちらにも伝わってくる。
こちらに気づいてくれないだけなのだろうか、それともつまらないと見切りをつけられたのだろうか。
「じゃあこうしましょう。
しい君は順番にひとりずつ連れて偵察してきて、他のみんなはここで応対しよう」
ことり先輩が提案してくれた。たしかに他の様子を確認しないといけない気がしていた。
じゃあ名札を隠そうか、と誰かがこう言った。まるでステルス偵察機になった気分だった。
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