花奉ミコと奏ノ宮クウの場合

私たちの結婚式の前

ミックスチーズと薄力粉、その他もろもろがいっぱい詰まった袋を両手に抱えながら、ウチらは新しい住処までの道を歩いていた。


途中で何度もミコが「重いよこれ~」とぼやいているけど、知った事じゃない。荷物持ちだと分かった上でついて行ってくると言ってきたのは、ミコの方なんだから。


「そういえば、せっかく一緒に暮らしてるんだし。

 たまにはミコが作ってあげようか?」

「別にいらない」


「えっ、もしかして自分の手料理をアタシに食べて欲しいから?

 もーーーー、クーちゃんの一途♡」

「キモ」


あたかも人がミコの事を好きみたいに言ってくるけど、もちろんそんなことないし。そもそも女の子が女の子を好きなんてない!


だからミコの好きは最初からありえない。ありえないけどたまに思う。ミコの好きは本当に恋人にいうみたいな好きなんだなって。一緒に暮らし始めてから、おはようのキスからお休みのキスまで完備だし、隙あらば手を握ってくるし。もちろんその度に抵抗しようとしてるけど、特に朝はボーっとしてるからされてしまう事も多い。


それって恋愛してるつもりのミコ側からしたらどうなんだろ。進まない関係についてなんか思ったりしないんだろうか。ウチの事も、いつか面倒くさくなったりするんだろうか。


(それは、少し嫌かも)


そんなことを考えてるうちに、気付けば早歩きになっていたウチの隣に、後ろから走ってきたミコが追いついてきて。それから顔を覗き込んでくる。「新婚さんみたいだね」なんて余計な一言も添えて。


人がまばらに歩く後ろの足音が消えた頃に「どうせまた立ち止まって休んでるんだろうな」と思ったけど違った。振り返ると結婚式場の一角。そこに飾られたウェディングドレスをジッと見つめている。


だから――いや、さっきの事もあったのかもしれない。ウチは気づけば「まだウチと結婚したいとか思ってる?」などと聞いてしまっていた。それから顔を赤くする。二つ返事で「もちろん」と返すミコに。


なにより、その言葉に少し安心してしまった自分の気持ちにも。ただそれも次のミコの言葉までだったけど。


「今の生活は花嫁修行だって思ってるし。

 だから毎日エッチな下着も履いてるよ、ほら!」

「ほらじゃねーよ。お前の中の花嫁修業のイメージどうなってんだよ」


周りに誰もいないのを良いことに、スカートをたくしあげて中身の透けた下着を見せてくる。隣にいる角度からは見にくいけど、ウェディングドレスを守る分厚いガラスに反射してみえてしまう。きっつ。


だからじゃないけどミコから目をそらして。ウチは早足でその場を去った。それからほどなくしてミコが追いついてくる。さっきの結婚式場のパンフレットを袋に入れて。もちろんそれも見て抜ぬふりする。口角が少し持ち上がってる自分に気づきながらも。


――ウチらが挙式を行ったのは、それから一週間後の事だった。

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