結
それから、彼女はこの学校から姿を消した。しばらくはその話題でもちきりだったけど、時間が経つにつれてその話題も少なくなっていった。その噂話をする集団を見つけたら、必ずヤヨイさんが割って入って行って喧嘩をしかけていった事も、少なからず影響してると思う。
「ウラヤヨじゃなくて、実は染ヤヨだったのかぁ。あたし一生の不覚!」
「その、カップリングとかいう呼び方キモイからやめて」
被害者側の意向もあって染谷さんは不起訴処分にはなったものの、事実が明るみに出出た以上、退学という結果は消すことは出来ずにそのまま学校を去った。まぎれもなく、ウチの推理によって。
存続が一時は危ぶまれていた茶道部は、今は活気を取り戻してお座敷からは毎日のように心地いい香りが漂ってくるようになった。今は大会に向けて練習中らしい。何の大会かはイマイチぴんと来ないけど。
分かると思うけどミコは良くも悪くもいつも通り。今も夏も近づきにわかに色づき始めた校庭をウロウロしながら「ヤヨイちゃんを組み込んで、二人の理想の結婚生活を練り直さなくては」などと口にしている。
どうやらコイツの頭の中には、勝手にカップルにされたクラスメイト達の将来設計が何件もあるらしい。怖すぎるんだけど。ていうか女の子が結婚するとかないから、絶対!
「でもでも、将来を誓いあったようなものだからねー。あれはもう」
それからミコはスマホを取り出して、流れるようなタップ操作を披露した後にウチの眼前にそれをかざした。そこにはどこかのお屋敷の庭で、2ショットを写す二人の姿がいて、思わず手で口を覆ってしまう。
ミコがその写真をもってるのはよしとしても、染谷さんがメイド服を着ているのが特に気になった。お屋敷でそれは浮いてるように見える。
え? もしかして働いてるの?
ヤヨイさんのお屋敷で? どうして――。
ミコのニヤニヤした顔にハッとして、気を取り直したウチが「それが恋仲とは限んないでしょ」と、言葉を返す。
「でもでもー、普通のクラスメイトで仕事の斡旋するとかないと思うんだけどなー」
「ないとは言えないし! ヤヨイさんが世話焼きな人なんじゃないの?」
小競り合いを繰り返しながらウチは思い出す。荷物を取りに来た染谷さんが、最後にウチの部屋を訪ねてきたあの日、うちに「ありがとう」と笑いかけてきた時の事を。
あの時はその理由が分からなかった。
どう取り繕っても、染谷さんを追い込んで退学にしたのはこの私だ。それで少しふさぎ込んで、ピザ漬けで腐った脳では「気を使ったのかな」としか、その時は思えなかった。でも、その理由が今になって分かった気がする。
「元気でいてくれてよかったね」
ウチの気を知ってか知らずか、ミコがポツリとそうこぼした。
ウチはその言葉に、本当に珍しく素直にうなずく。
ミコの言うように、付き合ってるとかはありえないけど。少なくとも二人が一緒にいて染谷さんが救われたなら、それ以上の事はないと思ったから。付き合ってるとかはありえないけど!
だから、少しだけお礼をしてもいいかなという気になって。ウチはミコの肩にそっと頭を寄せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます