第38話 襲撃の理由

「おのれガストン貴様ぁ! 帝国軍人としての矜恃を忘れて、辺境の蛮族どもと通じるなど恥を知れ!」

「……あんたにだけは、言われたくありませんなぁ」


 カバシマが拘束されているのは、普段は雌牛が出産したり、竜が卵を抱く特などに使われているテントだった。

 人間が使う物ではないので、床に干し草を敷き詰めてある以外、調度などは何も無い。

 両手両足に縄を打たれ、布できつく目隠しをされた状態で、カバシマはその干し草の上に転がっていた。軍用の懐中電灯がひとつ、天井からぶら下がっており、その小さな明かりの下でうごめくカバシマの姿は、巨大な芋虫のようにも見える。


「目的はなんだ? ワシを人質に取って軍に戻ろうなどと考えておるのではあるまいな!?」

「くだらないを通り越して、哀れとすら言える発想ですな……。ま、俺には何を言ってくれても構いませんですがね……もう少しご自分の立場をわきまえられることです。ここの族長殿は、俺と違って優しくはありませんぜ?」


 サーリヤとともに無言で僕がテントに足を踏み入れると、それまでカバシマの相手をしていたガストンが、僕を一瞥して小さくうなずいた。

 無言のままうなずき返して、僕は入口に立てかけてあった細い木の棒を手に取る。

 わざと足音を立ててカバシマの背後に回り込み、カバシマの後頭部にその棒をぐりぐりと押し当てた。


「なぜ、我らの村を襲おうとした?」


 精一杯声色を変え、僕は言った。

 カバシマが、ひゅっと息を吸い込む音が聞こえた。


「理由など……き、貴様ら辺境の跳ね上がりどもが、ナロジアと通じて帝国に叛逆を企んでいるという情報を得て調査に赴いたまでのこと」


 カバシマの言いように、僕とガストン、サーリヤは3人揃って思わず顔を見合わせてしまった。

 よくもまぁ、いけしゃあしゃあと……。

 なんだか無性に腹が立って、僕は棒を持つ手に力を込めた。


「次にくだらない嘘をついたら……撃つ」


 敷いた干し草を叩いてならすための棒だが、カバシマには小銃の銃口を突きつけられているように勘違いしてもらう。案の定、カバシマの息が速くなった。


「待て……待て!」

「正直に話せば、命は取らない。お前たちが旭光帝国司令部の指揮系統から外れ、言わば幽霊となっていることを我ら一族は既に把握している」

「な、なぜ……貴様らごとき蛮族がそれを……」

「お前が、お前自身の無能を取り繕うためにその誇りを貶めたガストン元軍曹は、我らの親愛なる友となっている。そういうことだ」

「おのれ……」

「すいませんね。俺ぁもう軍になんの未練もありませんので。中佐……いや、あんたももう元中佐ですかな? 悪いことは言いませんから、正直に吐いたほうが身のためですぜ?」

「何を吐けと言うのだ! 知らん! ワシは何も知らん!」

「俺を追い出したあと、あんたはナロジア軍の攻撃を受けてあえなく捕虜になったはずだ。今頃は捕虜収容所で壁の染みでも数えて過ごしてるはずのあんたが、どうして指揮していた部隊もろとも帝国辺境をうろついているのか? そこんところを教えてもらえませんかね?」


 言いながら、ガストンが自分の銃を僕のところに放ってきた。

 脅しにリアリティを、というわけだ。

 空中で銃をキャッチした僕は、派手な音を立ててボルトを引いた。ジャキン! という音がテント内に反響すると同時に、カバシマの体がびくりと強張る。


「し、し、資源! 資源調査だ! ナロジアに、このロガを含む帝国辺境に眠っているはずの、魔鉱に代わる資源の手がかりを見つけるように言われた! 成果を挙げれば、ナロジア軍で大佐の待遇をもって迎え入れると!」


 効果は抜群。

 カバシマはあっさりと口を割った。

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