第31話 奴らは知らない
「正直、勝つだけなら本当に簡単なんだ。あいつらは、自分たちが帝国本土人だという馬鹿みたいなプライドばかり高くて、この土地のことを何も知らない。竜という存在がどういうものかも、まったくわかっちゃいないだろう。実際、僕もこの目で見るまでまったくわからなかった」
カバシマ率いる山賊軍団に完勝すると宣言した僕だったが、その後はまぁ当然の流れとして「どうやって勝つのか?」という竜牧民たちの疑問に答えてあげる必要があった。
「……今、村にいる竜は何匹かな? 百はいないぐらい?」
僕はキダジャにたずねたのだが、キダジャが「そうですな…」と答えるよりも早く、
「成体の竜が、88匹。オスが41匹でメスが47匹です。子竜が、25。卵が8」
ぺらぺらと手帳をめくったシオが、簡潔に答えた。
「もしかして……この村の財産を全部把握してるの?」
驚いて僕が聞くと、
「主計科ですから!」
えっへん、とシオは胸を張った。
「合ってる?」
念のため、サーリヤに聞いてみる。
「多分……」と言いながら、サーリヤがやんわり目をそらすのを見て、シオが小さく「勝ちました」とつぶやいたのを僕は聞き逃さなかったが……まぁ黙っておこう。
何しろ、シオの情報には値千金の価値がある。彼女の小さな勝利にあやかりたいものだ。
「ならこの匹のうち60を20ずつ三隊に分けて、合図を出す人間と一緒に想定される進軍ルートに潜ませておけばいい。で、射程に入ったら一隊目が竜の火炎弾で攻撃。反撃を受ける前に散会して逃げる。そうしたら、次の一隊が出てきて攻撃……これを繰り返す」
身振りを交えながら、僕は作戦を説明した。
「こうやって敵を足止めしている間に、残りの戦える者は戦場を左右に迂回して一気に敵の後方に付く。これも竜の飛行速度をもってすれば、簡単だ」
そこまで言ったところで、「はい質問」とガストンが手を上げた。
「想定される進軍ルートって言いますけどね、奴らがどこを通るかなんてわからんでしょうが」
ガストンの質問に、実際に戦うことになるはずの男たちが「そうだそうだ」と乗っかった。
僕がガストンを見ると、ガストンはやや挑戦的な笑みを浮かべていた。わかっていて、僕を試すためにやっているのだ。
「見張りをあちこちに散らせて報告させますかい?」
「いいや、いらない。それだと、見張りに立った者が孤立するリスクがある。それは避ける」
僕は、首を振った。
さすがにガストンが、「え?」という表情になる。ふふーん。
「敵の進軍ルートを探るんじゃない。僕が通ってもらいたいと思うところへ、誘導する。何も考えず、最短距離をまっすぐ村まで突っ込んできてもらう」
「ど、どうやって?」
「そうだねぇ……いくつか考えられるけど、どうせなら景気が良くて、やって楽しいほうがいいね」
「た、楽しい……?」
「うん。だから……派手に宴会でもしてもらおうかな! みんな好きでしょ? 宴会」
ガストンが、ぽかんと口を開けた。
他のみんなも、全員目が点になった様子でその場に固まっていた。
……ふふーん。
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