第28話 シオのイケナイお願い
「い、イケナイ……お願い!?」
「はい……とっても……イケナイお願いでしゅ」
噛んだ。二連続で噛んだ。
大事なところで噛むのが、シオだ。つまりそのお願いというのは……とても大事な何かなのだ。
しかも、「イケナイ」のである。
「わち、ぶたれる覚悟はもうできています」
「ぶたない。ぶちません、絶対」
が、それがどんな願いであろうと、まずはっきりさせておかなきゃいけないことがある。
ぶちません。
「……だから、とにかく話してみて」
「ありがとう……ございます。でも……どこから話したらいいか……」
「落ち着いて。順番に。最後まで聞くから」
「はい……じゃあその……わち……わちも本当は、軍隊を辞めようと思って地元に帰ってきてたんです」
シオのお願いは、意外な所から始まった。
「そう……なの? そう言えば、なんで士官学校まで出てるシオが、左遷された僕なんかの案内役になったのかは聞いたことなかったね」
「わち、こんなですから……鉄砲も軍略もてんでダメで……
本心なのか謙遜なのかわからないが、シオの性格からして恐らく前者だろう。
とは言え、いくら主計科でも彼女のいう算盤だけで卒業できるほど士官学校は甘くないとは思うが……ここで話の腰を折るのも良くないので僕は聞き役に徹する。
「ソウガ様も最初に仰ってましたが、わちみたいな少数民族の軍人……それも士官は、とっても少ないです。それで、配属先の部隊でも浮いちゃって……だから、自分から人が少ないところ、もっと少ないところって転属ばかりしていました。でももう、行くところ……無くなっちゃって……」
「それで、退役しようと?」
「実家に帰って、お父さんの商売を手伝う気でいました。そんな時です、キシロ中将に呼ばれたのは」
「ユミナ……キシロ中将はなんて?」
「中将は、わちが退役して実家に戻ろうとしていることをご存じでした。それで、どうせ地元に帰るつもりならひとつ頼まれてもらえないかと……」
なるほど……ようやく話が見えてきた。
多分ユミナは、僕の降格が決まった瞬間にロガ自治区の事情に明るい人間を徹底的に探したのだろう。
結果、ロガの少数民族であるニト族出身の士官がいることを突き止めた。
更に調べてみると、その士官はどうも退役して実家に戻ろうと考えているらしいこともわかった。
ユミナにとっては、まさに渡りに船の人材。それが、シオだったのだ。
「ガストンもそうだけど……シオも色々大変だったんだね」
なんだか、似た者同士だ。僕も、シオも、ガストンも。
そこにいたる事情はどうあれ、全員が帝国軍に嫌気がさして逃げ出したという点においては。
僕がそのことを告げると、シオは少しだけ救われたような顔になった。
「わちも……そう思ってました。ソウガ様が本当に左遷……あ、ごめんなさい」
「いいよ。気にしない。続けて」
「……ロガにいらっしゃった理由がわかって、わち……ちょっと嬉しかったんです。ソウガ様みたいな立派な方でも、軍隊が嫌になることはあるんだって。……わち、悪い子です」
どうやら、少しずつ話が「イケナイ」方に向いてきたようだ。
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