第26話 帝国軍人として
今夜のところは少し様子を見て引き上げるつもりだったが、まさかの事態というやつだった。
僕とガストンは顔を見合わせてうなずき合うと、フュリにはガストンの竜ともども呼ぶまで動くなと言い含めて静かに行動を開始した。
相手がただの山賊であれば、場合によってはここで首領を討つか捕らえるかして幕を引く……という選択肢もあったが、もうその手は使えない。
慎重に慎重を期する必要がある。
僕たちは発見されないよう細心の注意を払いつつ、”敵”の兵力や装備をできる限り調べ、空が白み始める前にその場を後にした。
◇◆◇
翌朝、村に戻った僕はサーリヤとシオの他に、キダジャや村の主立った者を集めて、昨夜見聞きしたことをすべて隠さずに伝えた。
僕が話し終えると、しばしの間なんとも言えない沈黙がその場を支配したが、
「なぜ……帝国軍が山賊の真似なんぞしてるんです?」
集まっていたひとり、ヤガという名前の若い竜牧民が至極もっともな質問を口にした。
周りの何人かも大きく同意するようにうなずく。
「簡単に言うと、食うに困って……かな」
頭をかきながら僕は言った。沈黙から一転、場の空気がざわつき始めるが、それを手で制して僕は続ける。だがまあ、正直なところ説明するのは気が重いと言うか情けないと言うか……。
「カバシマ中佐率いる帝国軍機甲部隊の一部はナロジア王国との戦争で捕虜になっちゃってたはずなんだが……なぜか解放されてこの辺をウロついている。これは間違いない。でも、その事実は帝国軍に伝わっていない」
「普通なら辺境方面司令部あたりと連絡を取って助けを求めるはずなんですが、何かそうできない理由があるんじゃないかと、俺とソウガさんは見ています」
僕の後をガストンが引き継いだ。
「装備はともかく、ろくに食い物も無しで解放されたんでしょうな。だが、さっきも言ったように帝国本土に救援を頼めない理由がある。そうなると、残る手段は……略奪です」
略奪、という言葉が重く響いた。
「連中は、帝国軍の軍服を着ていなかった。正体を隠しているんだ。だから、当初襲われた隊商たちもまさか相手が元帝国軍とは思わず、山賊が出たと言った。いやまぁ、やってることは本当に山賊と変わらないわけだけど……とにかく、本当に申し訳ない……面目次第もないとはこのことだよ」
どういう理由があろうと、軍隊が民間人相手に略奪を働くなど絶対にあってはいけないことだ。
左遷され、帝国軍がどうなろうがもう関係無いと思っていても……やっぱり僕はまだ帝国軍人なわけで、彼らには謝らなければいけない。
「旦那様が悪いわけではありません。顔を上げてくださいまし」
そんな僕を気遣ってくれたのはサーリヤで、更に、
「皆もこのことで、旦那様やガストンさん、シオさんを責めないように。旦那様たちも何もご存じなかったのですから。……いいですね?」
先回りして竜牧民のみんなに釘まで刺してくれた。それがまた、申し訳ない。
「と、とにかく! これ以上その人たちが悪いことをする前に、わちたちから本当のことを本国に伝えましょう! ……ソウガ様を降格させたクソい……ああいえ、ナントカって中将はダメかもしれませんけど、キシロ中将ならきっと話を聞いてくださいます。……そうですよね? ソウガ様」
勢い込んでシオがまくし立て、すがるような目で僕を見た。今にも泣き出してしまいそうだ。
シオは、僕なんかよりもよっぽど「真面目で優しい軍人さん」なのだ。そんな彼女にとって、帝国軍が略奪を働いているという事実は耐えがたいに違いない。
できれば僕も、シオの願いに応えてあげたい。応えるべきだと思う。だが……、
「それは……無理なんだ」
「どうしてですか!?」
「明後日には……奴らはもうここに来る。間に合わない」
どこでどう伝えるべきか迷っていた一番重要な事実を、僕はここで告げた。
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