第24話 偵察

 テントを出ると、ガストンとシオが待っていた。


「ソウガ様、サーリヤさんは?」

「心配ない。でも、疲れてるようだから寝かせてきた」

「そうですか……急に倒れちゃったから……」


 ほっと息を吐いて、シオが胸をなで下ろした。

 真っ白な息が夜風に吹かれ、散っていく。


「わち……余計なお話をしてしまったでしょうか? 急にこんな風になっちゃって……」


 自分がもたらした情報が、結果的に村全体を騒がせる事態を招いてしまったことにシオは責任を感じているようだった。


「シオのせいじゃない。むしろ、シオが山賊の存在を知らせてくれたからこそ、先手を打って対処できる。僕がまだ将軍だったら、金一封に勲章つけてあげたかったぐらいだ」

「あ、ありがとうございます……。わちは、その言葉だけで十分です」

「今夜はシオももう休んで。……ガストンは、悪いけどちょっと付き合ってほしい」


 シオを労いながらガストンに目をやると、ガストンはひとつうなずいてから、


「念のため、こいつがいりますかね?」


 肩にかけていた帝国陸軍制式採用の小銃を掲げて見せた。


「その察しの良さ……さぞ、カバシマ中佐には煙たがられただろうね」

「過去の話ってことで。それより、飛ぶなら早めに。風向きが変わりそうですぜ」

「飛ぶって……どこへですか? ソウガ様もガストンさんも何の話をしてるんです?」


 僕とガストンの会話についていけない様子で、シオが目を白黒させる。


「先手を打つって言ったろ? ちょっと山賊どものねぐらを偵察に行ってくる。地図、借りていくよ」

「明け方には戻るつもりですけど……俺らがいない間、サーリヤさんと仲良くやってくださいよ?」


 「ええ!?」と言ったきり絶句してしまったシオの肩を交互に叩き、僕とガストンは自分たちの竜の所へと走った。

 既に話は通っているため、キダジャがガストン用の竜をひいて待っていてくれた。

 ガストンもこの半年ですっかり竜の扱いに慣れたもので、素早く鞍に駆け上がった。

 僕も口笛でフュリを呼ぶ。


「村からも人を出さなくて良いのですか? なんなら、ワシが供をしてもよろしいが」

「ありがとうキダジャ。狩りに行くなら付いてきてもらうけど、今回みたいな仕事は僕らの専門だ。……サーリヤのことを頼む」

「……承知。婿殿もお気を付けて」


 ◇◆◇


 飛ぶ方向はフュリに任せ、僕は懐中電灯でシオから借り受けた地図を照らしていた。

 まったくシオには感謝しなきゃいけない。いくら親族からの情報提供があったからと言って、その情報を的確にまとめるには技術とセンスがいる。

 その点、この地図の情報は完璧だった。主計科ではなく、情報部でも十分にやっていけるだろう。


「優秀だな、シオは」


 端的な感想をつぶやくと、


「……軍人の顔に戻ってますぜ、ソウガさん」


 隣を飛ぶガストンが、耳ざとく聞きつけて声をかけてきた。


「そう言うガストンこそ、その銃はどこに隠し持ってたわけ? それ、九五キューゴー式だろ? 射撃成績特に優と認められた者にしか支給されない代物だ」

「軍は除隊になりましたが、支給品を返却せよとは言われなかったもんで」


 いつものように、どこかとぼけた調子でガストンは答えをはぐらかした。

 僕も、それ以上は追求するような真似はしない。


「……森に入る。フュリ、降りるぞ」


 シオの書き込みによれば、この森の中に山賊たちは拠点を設けているらしい。

 僕の指示を受け、フュリが一度鼻をひくつかせた。既に何かの匂いを察知したようだ。音を立てるなと言うまでもなく羽ばたきをやめ、風の流れに逆らわずに無音で降下していく。

 シオとガストンだけでなく、このフュリも相当に賢い子だ。

 やや遅れて、ガストンを乗せた竜もフュリの辿ったルートをトレースする形で高度を下げてきた。


「ソウガさん、あそこに見えるのは焚き火じゃないですか?」


 ふわり、と二匹の竜が森に着地したところで、素早く双眼鏡を取り出したガストンが言った。

 僕も”目”を凝らす。

 確かに、焚き火が見えた。人がいる。


 が、僕は焚き火よりもその隣に置かれていた物を見て、内心で驚愕していた。


「マジかよ……」


 同じ物を見つけたらしいガストンも、うなるような声をあげる。


「なんで……山賊のアジトに、帝国軍の装甲車があるんだ?」


 そう、そこにあったのは紛れもない……旭光帝国陸軍の魔導装甲車だったのだ。

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